覚え書:「異論反論 官邸前での抗議行動が広がっています 切実な声に耳を傾けよ=雨宮処凛」、『毎日新聞』2012年7月25日(水)付。



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異論反論 官邸前での抗議行動が広がっています
切実な声に耳を傾けよ
寄稿 雨宮処凛

 16日、代々木公園で開催された「さようなら原発10万人集会」に参加した。
 猛暑となったこの日、炎天下に集まったのは主催者発表で17万人。福島第1原発事故から1年4カ月。活断層の調査さえ済んでいないまま大飯原発が再稼働された国で、「脱原発」への思いがこれまでにないほど高まっている。
 それを裏付けるのが、首相官邸前での毎週金曜夜に開催されている抗議行動だ。
 原発再稼働に反対してこの行動がはじまったのは3月。このころから参加していたのだが、当初の参加者は数百人。それが6月に入り、野田佳彦首相が再稼働を明言すると同時に人はどっと増え、同月末には主催者発表で20万もの人が官邸前に駆けつけた。いつからか、この状況は「紫陽花革命」と呼ばれている。「アラブの春」の火付役となったチュニジアの「ジャスミン革命」から命名されたのだろう。参加者のほとんどが、ツイッターフェイスブックでこの行動を知った人たちだ。
 集まっている人たちは、実に多様だ。赤ちゃんを抱いたお母さん、3世代の家族連れ、若者グループ、お年寄り。老若男女が午後6時から8時までの2時間、「再稼働反対」と叫び続ける。民主党議員をはじめとして、国会議員の姿も多い。
 もちろん、福島から避難している人も来る。原発から1・5キロの場所に住んでいた女性は、官邸に向かって「絶対安全」という言葉にどれほど騙されてきたか、着の身着のまま逃げだし、これまで何度死んだほうがマシかと思ったかを、涙ながらに訴えた。同じく福島から避難中だという別の女性は、息子が事故の後処理をするために今も原発で働いていることをスピーチ。被災者でありながら、原発労働者。「小さな子供の命も大切ですが、私には30歳の息子の命も大切です」という言葉が、胸に突き刺さった。
 これだけの切実な叫びに対し、野田首相の反応はというと、「大きな音だね」。
 さすがに翌週には「さまざまな声が届いております」とコメントしたが、福島の人々や、この状況で再稼働に大いなる疑問と怒りを抱くひとびとの声を黙殺する方針は曲げないようである。

直接民主主義の実践」始まっている
 ここ1カ月、目立って、増えてきているのは「政権打倒」というプラカードだ。また、今月18日からは、官邸前で別の行動も始まった。毎週水曜日夜、消費増税生活保護改悪、社会保障の切り捨てなどに対して「私たちの声を聞いてください」と訴える行動が始まったのだ。
 こうして今、続々と官邸前に、政治に対する疑問を持った人々が集まっている。ある意味、これほどまでに人々を危機感から「立ち上がらせた」政権はないではないだろうか。そうして、民主党からは離党者が相次いでいる。現場に来ればわかるだろう。今、この国では、壮大な「直接民主主義の実践」が始まっているのだ。
あまみや・かりん 作家。反貧困ネットワーク副代表なども務める。29日には首都圏反原発連合主催「脱原発国会大包囲」に参加予定です。また8月1日には日弁連生活保護問題に関するシンポジウムに出演。「脱原発にも生活保護問題にも、取り組み続けます」
    −−「異論反論 官邸前での抗議行動が広がっています 切実な声に耳を傾けよ=雨宮処凛」、『毎日新聞』2012年7月25日(水)付。

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