一国の学問をになう力は−−学問に活力を賦与するものは、むしろ学問を職業としない「俗人」の学問活動ではないだろうか


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 私は本書の中で、市民の日常的な政治的関心と行動の意味を「在家主義」にたとえたが、同じ比喩を学問、とくに社会科学についても日頃考えている。私を含めて学問を職業とする学者・研究者はいわゆる学問の世界の「坊主」である。学問を高度に発達させるために、坊主はいよいよ坊主としての修業をつまなければならない。しかし、宗教と同じように、一国の学問をになう力は−−学問に活力を賦与するものは、むしろ学問を職業としない「俗人」の学問活動ではないだろうか。私が乏しいながらも、本書の論文で意図したことは往々誤解されるように学界とジャーナリズムの「架橋」ではなくて、学問的思考を「坊主」の専売から少しでも解放することにあったのである。その意味で、私としては今後とも、とくに学問を愛する非職業学者からの鞭撻と率直な批判を期待しお願いする次第である。
    −−丸山眞男「増補版 現代政治の思想と行動 後記」、『丸山眞男集』第九巻、岩波書店、1996年、181−182頁。

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政治学者・丸山眞男の単著で最初に手に取ったのは、『日本の思想』(岩波新書、1961年)ではなく、『現代政治の思想と行動』(未來社、1956−57年)だと思う。

手に取ったのは合本増補版(1964年)だったと思うが(現在の新装版、2006年)、あの衝撃はわすれることができない。現代日本の精神状況、そしてイデオロギー政治学を踏まえ、人間と政治について論じた「迫力」に度肝を抜かされるとともに、偉大な先達と時間を共有していたことに、少し嬉しくなった記憶がある。

さて冒頭に引用したのは、増補版の「後記」です。

『現代政治の思想と行動』は、出版以来、様々な「暴風雨」にさらされたといってよいと思いますが、「後記」は、それを踏まえたうえで、自身の「試論」に対する反応への応答ととらえていいでしょう。

丸山の挑戦とは、その一冊だけにかぎらず、トータルな歩みとして通俗的なアカデミズムという象牙の塔への「撤退」でもなく、さりとて手順を割愛したジャーナリズムへの「迎合」でもない。そこにその真骨頂を見出すことができるとは思います。

それを「坊主」と「在家主義」というキーワードで、自認していたことは非常に興味深い。

私自身も“通りすがりの”非常勤にしかすぎませんが、手順を割愛して、何かに迎合するようなことは「学問」ではないと思うから「坊主はいよいよ坊主としての修業をつまなければならない」というのは至言であると思う。

しかし、真理を探究する学問者というのは坊主であって坊主でもない。何かの奴隷ではないという意味では「自由人」であるから(←くどいけど、手続きをおろそかにして好き放題ぺらぺら言及するとか、何かにとっていいように利益誘導するという意味ではなく)、一個の人間として……丸山の言葉で言えば「俗人」として……関心や問題意識をもって、対象を観察し、熟慮し、表現していく「身軽さ」は大事だと思う。

そういう刺激が相互に応答されることによって、学問というのは、漸進していくのだと思うし、意外なところで「ああ、そういう発想もあるのだよな」と、例えば学生さんや主婦の方といった「生活者」の視座から「うん、うん」と唸ることもある。

これは経験からよく分かる。

自分自身、ハンパモノなので、その感覚が凄く分かるのですが、それを学問の「在家主義」といいますか……、結局のところ、学問と生活という二元論ではなく、坊主としての「学問」関係者も「生活者」だし、生活者も「探究者」としては、学問関係者だから、その交差をうまくやっていくなかで、実際のところ創造的営為というものは、生成されていくのだろうと思います。

さて……。
自分自身の事柄で恐縮ですが、いわゆる「最近の学生はねぇ〜」っていう“定番”の上から目線の先生に出会ったことがないのは幸甚としかいいようがない。

後達を「いいよう」に利用するのがアカデミズムの世界であり、学校教育においても「昔はナー」という連中がごまんとして存在する。もちろん、「ものたりなさ」の批判はしかるべきだろうけれども、発想の全否定はされたことがない。
※誤認の修正への指摘は枚挙の暇がないという(涙 でもありますが。。。

その意味では、そうした「素人感覚」とそれを洗練していく過程としての学問としての「在家主義」(と同時に「坊主」の内在的・不可避な批判)というものは「学問」という営為を営為たらしめるうえで、必要不可欠なんでしょうねー。

自分自身もかくありたいと思います。

そういう意志とか発想とか、自由な思念をねじ曲げようとする「坊主」こそ最低ですし、おうおうにして「坊主」っていう奴は、自身の安心立命が「坊主」のメシノタネになるものを「利用」するだけ「利用」してあとはポイですから……宗教にしても学問にしても……。

だからこそ、自身への訓戒として、その辺には自覚的でありたいというはなし。








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