同じような番組のどのタレントも似たような動作をする。別に悪い、といっているのではないが、やっぱり、おかしくてニヤッとしてしまう。





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 戦争中や戦後の、あのたまらない空腹時代に生きた私などには、グルメ流行の昨今が夢のようだ。
 仕事場にちかい原宿を歩いていると、若者たちがさまざまな服装をして集まっているが、彼等をみると私などは「ああ、この世代はひもじいということを知らないのだ」とすぐ考える。
 本屋には「東京うまいもの店」とか「食べあるきの本」という本が何冊もならんでいる。
 何でもいい、食べられるものなら雑草まで食べようとしたあの時代には、いつかこんな本がでるとは思いもしなかった。
 テレビをみる。タレントさんがあちこちのおいしい料理を食味して、紹介するという番組がいくつかある。
 おもしろいのは、そういう画面でタレントさんのほとんどが同じ動作をすることだ。
まず、一口、口に入れて、一寸、考えこみ、そして「うん」といかにもおいしそうに強くうなずく。これが一人だけではない。同じような番組のどのタレントも似たような動作をする。別に悪い、といっているのではないが、やっぱり、おかしくてニヤッとしてしまう。皆さんも気をつけてみてごらんなさい。
    −−遠藤周作「信長や秀吉の料理」、『変わるものと変わらぬもの』文春文庫、1993年、32−33頁。

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電車のなかで読んでいて思わず吹き出した一節なので紹介しておきます。
※午前中の山手線内です(涙

今から20年以上前の指摘なわけですが、この「同じような番組のどのタレントも似たような動作をする。別に悪い、といっているのではないが、やっぱり、おかしくてニヤッとしてしまう」っていうのは、料理番組だけに限られた問題ではないですよねぇ。

テレビはほとんどみないのですが、なんといいますか、テレビという「マス・メディア」のいいかげんさをちょっとした数行ですが表現できる遠藤周作先生に拍手です。









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