覚え書:「だいあろ〜ぐ:東京彩人記 『特撮博物館』副館長の映画監督・樋口真嗣さん」、『毎日新聞』2012年08月22日(水)付(東京版)。



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だいあろ〜ぐ:東京彩人記 「特撮博物館」副館長の映画監督・樋口真嗣さん /東京


 ◇「日本独自」に目を向けて
 「特撮博物館」副館長の映画監督 樋口真嗣さん(46)

 都現代美術館(江東区三好4)で10月8日まで開催中の企画展「特撮博物館 ミニチュアで見る昭和平成の技」が好評だ。アニメ「エヴァンゲリオン」シリーズなどで有名な庵野秀明さんを「館長」に招き、ウルトラマンをはじめとする戦後日本の特撮の系譜をたどるという、美術館としては異例の試みだ。「副館長」を務める映画監督の樋口真嗣さん(46)に、企画の狙いや見どころを聞いた。

 −−「特撮」に焦点を当てた企画展のきっかけは?
 ミニチュアを使った特撮の映画やテレビシリーズは、70年代の石油ショックや物価高でコストが上がり、作りづらくなりました。その頃に米国でコンピューターグラフィックス(CG)を駆使したSF映画「スター・ウォーズ」(77年)が誕生し、日本の作り方は古いと思われ始めたんです。CG一色の中で特撮技術は過去の遺物として追いやられましたが、それらを本当に捨て去っていいのか。日本独自のモノづくりの方法の一つに改めて目を向けてもらおうと思ったのが、今回の展示です。
 中は撮影所内にあった特撮美術倉庫を再現しました。駆け出しの頃、薄暗い中に置いてある怪獣のパーツや、都電や蒸気機関車のミニチュアに見とれ、戻るのが遅れて上司に怒られていたのを思い出します。

 −−何十年も前に撮影現場で使われたミニチュアを集めるのは大変だったのでは?
 運のいいものだけが残っていましたが、多くはボロボロ。部品しか残っていなかったり、飛行機型の羽根がもげていたり……。特殊メークの技術者が図面を参考にしながら、まず木型を作り、ブリキを当ててたたいていくという昔ながらの方法で再現しました。

 −−今回の目玉に、樋口さんが監督した特撮のみの短編映画「巨神兵東京に現わる」の上映があります。巨神兵は本当に生きているような動きでした。
 特撮のキャラクターデザインは、操作するために人が中に入れることが前提になっています。でも宮崎駿監督のアニメ「風の谷のナウシカ」に登場した巨神兵のプロポーションは、細身で人間が絶対に入れない。人が入る形に変えると巨神兵ではなくなってしまうので、文楽人形のように外から人が操る方法にしたんです。

 −−樋口さんが特撮に初めて関わったのは?
 84年、久しぶりに製作された映画「ゴジラ」です。この新作は内容が徹底的に秘密にされ「世紀の瞬間に立ち会わなくてどうする」と思ってアルバイトとして潜り込みました。この時についていたのが、ゴジラの着ぐるみを着脱させる仕事だったことです。自然と監督、撮影、照明とスタッフが主役のゴジラに集まってくる。当然、私も傍らにいて、映画作りの真ん中にい続けたんです。

 −−子供たちにメッセージをお願いします。
 ここにあるものは、みんな誰かが作ったものです。手を動かし、汚して、何かを作るということの作る楽しさを知ってほしい。まだ眠っている作品もあるので、期間限定ではなく、いずれ常設展示ができるようになるといいですね。<聞き手/社会部・柳澤一男記者>

 ◇記者の一言
 街の風景について興味深い話を聞いた。昔、街頭看板のミニチュアを作るのに、チラシを切り貼りしていたアルバイトに「こんな看板はない。本物は店の名前が出っ張っていたり、ネオンで飾られている」と怒ったそうだ。
 だが今は、実物がそういう看板ばかり。「街全体が薄っぺらくなったと感じる」と樋口さんは嘆く。これも元気がない日本の一コマかもしれない。高度成長期に全盛を誇った特撮に触れ、モノづくりの魅力を感じる少年少女が増えてくれればと願う。

 ◇ 人物略歴 ひぐち・しんじ 1965年、新宿区生まれ。高校卒業後に映画界入りし、95年からの「ガメラ」平成シリーズなどで特撮監督を務めた。「ローレライ」(05年)、「日本沈没」(06年)などを監督し、最新作の「のぼうの城」(犬童一心監督との共同作品)は11月公開予定。
    −−「だいあろ〜ぐ:東京彩人記 『特撮博物館』副館長の映画監督・樋口真嗣さん」、『毎日新聞』2012年08月22日(水)付(東京版)。

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http://mainichi.jp/area/tokyo/news/20120822ddlk13040271000c.html




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