覚え書:「異論反論 佐藤さん! 尖閣問題が加熱しています=佐藤優」、『毎日新聞』2012年9月26日(水)付。



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異論反論
佐藤さん! 尖閣問題が加熱しています
寄稿 佐藤優

日本は政府間対話を恐れるな
 尖閣諸島問題をめぐる日中間の緊張を、このまま放置しておくと武力衝突につながりかねない。「尖閣諸島が日本固有の領土であることは歴史的にも国際法上からも明らかであり、現に我が国はこれを有効に支配しています。したがって、尖閣諸島をめぐって解決しなければならない領有権の問題はそもそも存在しません」(外務省ホームページ)というのが、日本政府の立場だ。
 最近、筆者は尖閣関連の外交文書を精査してみたが、尖閣初頭をめぐる領有権の問題、すなわち領土問題が存在しないという政府の主張と明らかに齟齬を来す外交文書があることに気づいた。それは日中両国が相互の排他的経済水域EEZ、領海12カイリを除く沿岸から200カイリの水域)の漁業について定めた日中漁業協定(正式名称「漁業に関する日本国と中華人民共和国との間の協定」)だ。この協定は、97年11月11日に東京で署名され、98年4月に国会で承認され、00年6月1日に効力が発生している。協定第6条(b)に、「北緯27度以南の東海の協定水域及び東海より南の東経125度30分以西の協定水域(南海における中華人民共和国排他的経済水域を除く。)」と記されている。まさに尖閣諸島が含まれる水域だ。しかし、協定本文には、この水域に関する規則をなにも定めていない。ただし、この条約が署名された日に小渕恵三外相(当時)が、徐敦信中国大使(同)に「日本政府は、日中両国が同協定第6条(b)の水域における海洋生物資源の維持が過度の開発によってー脅かされないことを確保するために協力関係にあることを前提として、中国国民に対して、当該水域において、漁業に関する自国の関係法令を適用しないとの意向を有している」と記した書簡を送っている。
 従って、日本は尖閣諸島周辺のEEZで操業する中国漁船を取り締まることができないのである。同日付で徐大使から小渕外相に宛て、中国政府が当該地域で日本国民に対して中国の漁業関連法令を適用しないという書簡を送っている。これを「外交上の相互主義なので問題ない」と強弁することはできない。尖閣諸島を実効支配している日本政府が自国のEEZにおける施政権の一部を中国に対して放棄する意向を示す外交文書を発出したことは、外交における大きな譲歩であり、領土問題をめぐる係争の存在を認めることになる。

交渉の席で主張し武力衝突回避を
 日本は尖閣諸島に関する政府間対話を恐れるべきではない。外交交渉の席で尖閣諸島は歴史的、国際法的に日本領であると正々堂々と主張すればよい。尖閣諸島の帰属問題を中国がICJ(国際司法裁判所)に提訴するならば、受けて立つと表明する。同時に日本は「領土問題は存在するまで、尖閣諸島への中国国民の上陸、尖閣諸島周辺領海への立ち入りを自粛する」という合意を中国から取りつけ、武力衝突回避のために全力を尽くすべきだ。
 さとう・まさる 1960年生まれ。作家。元外務相主任分析官。「スポーツ事務に通い始めました。毎日、プールの中で1時間、歩いています。小学3年の夏休みに母親に連れられて大宮公園のそばにある埼玉県営プールでの水泳教室に通ったときの記憶が、よみがえってきました。
    −−「異論反論 佐藤さん! 尖閣問題が加熱しています=佐藤優」、『毎日新聞』2012年9月26日(水)付。

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