研究ノート:関東大震災下における中華民国の救護支援



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 一九二三年九月一日、日本で世界を震撼させる関東大震災が発生した。その翌日、上海の『申報』はいち早くこの地震のニュースを報道し(1、地震発生三日後には中国の主要新聞が相次いで関東大震災を大きく報道し、日本が蒙った大きな災害に、異口同音の同情の意を寄せている(2。
 関東大震災は緊迫した日中関係について一つの転機をもたらした。九月三日、北京政府が以下のような震災救援措置を取ることを閣議決定した。すなわち、?被災者の慰問、?震災状況の調査、?義援金二〇万元の拠出、?各地の紳商に対する義援金拠出の呼びかけ、?救援物資の輸送、中国赤十字代表の派遣などである(3。九月六日、互いに対立する各派の軍閥が代表を北京に送って「救済同志会」を結成し、具体的な救援方法をめぐって討議した(4。清朝最後の皇帝溥儀は数回にわたって北京の日本大使館に金品を寄附し、京劇の著名な俳優・梅蘭芳は上海で慈善公演を行った。
 中国各界による関東大震災救援の中で、これまでにほとんど注目されてこなかったのが紅卍字会の活動である。同年一一月、世界紅卍字会中華総会は侯延爽ら三人を日本に派遣し、米二〇〇〇石と五〇〇〇ドルを送った。紅卍字会の救援活動活動は紅卍字会関係の資料の中でしばしば言及されるが、その具体的な内容については不明な点が多い(5。
1)「日本地震大火災」『申報』一九二三年九月三日。
2)「日本大震災」『晨報』一九二三年九月三日社説。
3)「中国軍民救済恤民」『盛京時報』一九二三年九月七日。
4)「段張競因日災会合」『盛京時報』一九二三年九月八日。
5)世界紅卍字会中華総会編『世界紅卍字会史料氵匸編』香港:二〇〇〇年八月、一三三頁。
    −−孫江「地震の宗教学  −−一九二三年紅卍字会代表団の震災慰問と大本教」、竹内房司編『越境する近代東アジアの民衆宗教 −−中国・台湾・香港・ベトナム、そして日本』明石書店、2011年、83−84頁。

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論文の趣旨は副題の通り「一九二三年紅卍字会代表団の震災慰問と大本教」についての研究ですが、関東大震災下における当時の中華民国の震災救援活動に関してはほとんど紹介されておりませんので、冒頭に掲げさせていただきました。

たとえばWikipediaで「関東大震災」を引くと、欧米の支援は写真入りで紹介されており、中国に関しては、清朝最後の皇帝溥儀の個人的活動に関しては言及がありますが、中国政府の支援に関しては記述がありません。

当時の日中関係は、4年前の五四運動にみられるように、日本の大陸進出の傍若無人ぶりから、きわめて良好なものではありませんでした。しかしながら、震災下においては、「互いに対立する各派の軍閥が代表を北京に送って「救済同志会」を結成し、具体的な救援方法をめぐって討議」し、中国政府は救援の手をさしのべております。

こうした友誼を忘れてしまうことこそ、歴史に対する健忘症であり、現状の誤解と混乱を助長させる一部政治家たちを利することになってしまうのではないかと思います。









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