覚え書:「くらしの明日 私の社会保障論 大きな社会構想の選択を=湯浅誠」、『毎日新聞』2012年11月23日(金)付。



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くらしの明日 私の社会保障
大きな社会構想の選択を
湯浅誠 反貧困ネットワーク事務局長

注目したい「政策のパッケージ化」

 衆院が解散された。総選挙は12月16日投開票のため、東京都は知事選とのダブル選挙となる。
 政党や議員の集合離散に、つい目を奪われがちになるが、いずれは徐々に収束するだろう。その時の「軸」を、今から考えておく必要がある。


 社会保障については「自助」と「共助・公助」のぢちらを重視するかが一つの軸となるだろう。自助は家族などの結びつきを軸に、自力で自立を促す。共助や公助は他者の支え合いを重んじる。共助は地域や社会の責任で、公助は政府の責任で個人を支える。
 ただ「自助」を強調すれば個人や家族が自立できるとは限らない。干ばつで枯れつつある稲に「頑張れ」と声をかけても、ピンと立ち直るわけではない。水をやらねばならないのだ。
 干ばつでも水を絶やさないためには、ため池を整備するなどの工夫が必要だ。ため池は地域の「共有財産」。地域や社会の支え合いと行政の後押しが加わることで、個々の稲はたくましく育ち、豊かな穂をつける。
 問われるべきは「自助」か「共助・公助」かではない。個々人がそれぞれの能力を最大限に発揮し、全体最適に達するためには、自助・共助・公助をどうミックスさせるべきか、ということだ。
 例えば、子育て中のお母さんが働きに出る。3世代同居なら、子どもの面倒をおばあちゃんに見てもらえるが、それができず、かつ保育サービスもなければ、母親は子育てノイローゼに陥るかもしれない。そんな時に母親に「頑張れ」と声をかけても無意味だ。分かっていても、力尽きることもある。それが人間だ。
 だとすれば、税制上の優遇措置などで3世代同居を促進する(公助)か、保育サービスを拡充する(公助)か、地域に「子育てサロン」のような場を作る(共助)などのサポートが必要だ。その結果、母親と子どもの健全な関係が保たれ、自立が可能となる(自助)。
 自助とは、共助や公助との相互作用によって初めて機能するものだ。自助を強調するだけで自助が果たされるなら、社会も政府も不要だ。


 注目したいのは、「自助」を唱える人々が、外交では強硬路線、経済では競争至上主義、組織論ではトップダウンを主張する一方、「共助・公助」を唱える勢力は、外交で強調路線、経済では創意工夫・内発的発展・環境調和、組織論では多様性の尊重を唱え、政治理念や路線、政策の「パッケージ化」が進みつつあることだ。
 今回の総選挙がこうした大きな社会構想の選択につながることを、私は望んでいる。
ことば 自助・共助・公助 過去の社会保障政策に目を向けると、障害者自立支援法生活保護費削減などは、当事者に自力での自立を求める自助に傾きがちな施策。「社会で子どもを育てる」を理念に掲げた子ども手当制度や最低保障年金制度は公助を強調した。一方、東日本大震災で全国から集まったボランティアや義援金による被災地支援は共助に当たる。
    −−「くらしの明日 私の社会保障論 大きな社会構想の選択を=湯浅誠」、『毎日新聞』2012年11月23日(金)付。

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