覚え書:「書評:『大原孫三郎』 兼田麗子著 評・尾崎真理子」、『読売新聞』2013年01月27日(日)付。
-
-
-
- -
-
-
『大原孫三郎』 兼田麗子著
評・尾崎真理子(本社編集委員)
クラボウ、クラレ、中国電力などを築いた岡山の企業家、大原孫三郎(1880〜1943年)は労働環境の改善と文化事業で名を残した。
篤志家の資質は互助精神が根づく倉敷の風土が育んだのか。あるいは東京遊学でこさえた莫大な借金で義兄を疲弊、急逝させた痛恨事が、キリスト者となったその後の精進を支えたのだったか。いずれにしろ、息つく暇もなく氏が進めた広範で先見性に富む事業と社会貢献。その全容を見渡すことができた。
岡山孤児院への支援に始まり、英国の田園都市を模した工場、社宅、病院、学校の整備。農業と社会問題と労働科学、三つの研究所の設立と実学者の育成。さらには私費を投じて大原美術館と日本民芸館に実を結んだ、芸術家への援助。土光敏夫をはじめ戦後の人材を輩出した奨学生制度。すべてに「金は出すが口は出さぬ」の基本線を貫いたというが、激しい反骨と複雑な性格も行間から伝わる。
著者は地域文化や経営、政治史などを幅広く学び、一族の調査研究を重ねてきた。新書に収めることで一層、大原の個性が凝縮した。(中公新書、880円)
−−「書評:『大原孫三郎』 兼田麗子著 評・尾崎真理子」、『読売新聞』2013年01月27日(日)付。
-
-
-
- -
-
-
http://www.yomiuri.co.jp/book/review/20130128-OYT8T00943.htm
大原孫三郎―善意と戦略の経営者 (中公新書)
posted with amazlet at 13.02.07