覚え書:「書評:『コモンウェルス』 アントニオ・ネグリ/マイケル・ハート著 評・宇野重規」、『読売新聞』2013年01月27日(日)付。




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コモンウェルス』 アントニオ・ネグリマイケル・ハート

評・宇野重規政治学者・東京大教授)
高まる〈共〉の重要性


 ネグリとハートの著作『帝国』が話題になったのは、2000年のことである。冷戦終焉後のグローバル化の中で、新たな権力形態が生まれつつあるのではないか。世界にネットワーク状に拡がった権力の姿を論じた二人の著者は、現在をどう捉えているのだろうか。

 たしかにアメリカの単独行動主義はイラク戦争金融危機で挫折に終わった。とはいえ、多国間の協調主義が復活したわけではない。むしろ国境を越えて拡がった<帝国>の権力によって、世界に新たな分断線と階層構造が作り出されていると二人は論じる。

 このような状況に対し、どう立ち向かうべきであるか。もはや生産手段の国有化による社会主義はもちろん、一国的な枠内で社会保障の充実を目指す社会民主主義にも可能性はない。

 ここで出てくるのが、<共>(コモン)である。それでは<共>とは何か。私たちはしばしば公的か私的かの二者択一を排他的に捉える。が、彼らによれば、このような捉え方は、社会主義か資本主義かの二者択一と同様に有害である。

 この世には資本家が所有するものと、国家が管理するものしかないのか。そんなはずはない。現に、人々は多くのものを共にしている。大地や海洋、空気や生命は<共>である。知識やイメージ、人々の生き方も<共>である。

 ネグリらがとくに重視するのが、後者の<共>である。現代の労働では、この意味での<共>の重要性が高まる一方である。情報化やコミュニケーションの発達とともに、私たちはより多くの知識やイメージを共にし、そのことによってさらに情報を豊かにしている。

 このような意味での<共>の搾取や独占を許してはいけない。コモンウェルス(共通の財産、そして共和国)を人々の手に取り戻すことを通じて<帝国>の革命を目指す二人の思想家は、ますます意気盛んである。水嶋一憲監訳、幾島幸子、古賀祥子訳。

 ◇Antonio Negri=イタリアの政治哲学者◇Michael Hardt=アメリカの政治哲学者。

 NHK出版 上下各1400円
    −−「書評:『コモンウェルス』 アントニオ・ネグリマイケル・ハート著 評・宇野重規」、『読売新聞』2013年01月27日(日)付。

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