覚え書:「【書評】私の日本古代史(上)(下) 上田正昭著」、『東京新聞』2013年02月03日(日)付。




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【書評】私の日本古代史(上)(下) 上田正昭

◆<中華>目指した施策を解明
[評者] 岡部 隆志 共立女子短大教授、古代文学。著書『古代文学の表象と論理』。
 本書は、日本の古代を縄文時代から律令(りつりょう)国家成立まで通して論じた歴史書である。ポイントは二つある。一つは、日本古代史を一貫してアジア、特に中国、朝鮮とのかかわりのなかで見つめること、もう一つは天皇制の成立を古代の中の近代とも言うべき律令国家成立の問題として把握することである。アジアとのかかわりは上田史学の一貫したテーマだが、すでに縄文文化からアジアとのかかわりなしには成立せず、アマテラスの神話から律令国家成立も含めて朝鮮を経由した大陸文化の大きな影響を受けていると説く。特に朝鮮からの影響を重視するのが本書の特徴であろう。
 それにしても日本は何故貪欲に影響を受けようとしたのか。それは、日本もまた中国に対抗して<中華>たらんとしたからだという。例えば、日本書紀には「新羅、中国に事(つか)へず」(雄略天皇七年)とあるがこの中国は日本を指す。つまり、日本は新羅を下に見て自らを「中国」と称したのである。日本という国号を使ったのも天皇と称したのも、中国、朝鮮との複雑な外交関係の中で、一方の<中華>たらんとして近代律令国家を成立させた天武・持統朝の施策だと解き明かしていく。
 こう見ていくと、日本の古代史は中国、韓国との領土問題を抱えた難しい外交関係の中で国家を強化しようとしている現代日本とそのまま重なりあうだろう。このことを照らし出すのも本書の意図であるようだ。本書は上田史学のコンパクトな集大成といった趣だが、現代日本のあり方を古代史を通して問おうとしている意欲作でもある。
 それにしても日本の古代史は面白い。今年は伊勢式年遷宮があるが、これも起源は古代に遡(さかのぼ)る。天皇制の向こう側には自然を神とみなすアニミズム文化をいまだに抱える日本があるだろう。本書にないものねだりをすれば、そういった日本の古代史をもっと論じて欲しかったということになろうか。
うえだ・まさあき 1927年生まれ。歴史学者。著書に『日本神話』『古代伝承史の研究』など。
(新潮選書 ・ (上)1575円、(下)1470円)
<もう1冊>
 森浩一著『古代史おさらい帖』(ちくま学芸文庫)。考古学の成果・知見と古事記などの文献を重ね合わせて古代史を再検証する。
    −−「【書評】私の日本古代史(上)(下) 上田正昭著」、『東京新聞』2013年02月03日(日)付。

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