覚え書:「今週の本棚:歴史の愉しみ方=磯田道史・著」、『毎日新聞』2013年02月24日(日)付。




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今週の本棚:歴史の愉しみ方
磯田道史
中公新書・777円)

 人は齢を重ねるとともに古の出来事に関心が出てくるもの。自分自身にも歴史が刻まれて行くのだから、自然の理である。だが、ときには天賦の才に恵まれ、幼児のころから過去の事象に異常なほど興味をいだく人がいるらしい。
 著者は小学生になるかならないころ美術全集にあった上古の出雲大社の想像設計図をたよりに材木の切れ端で庭にその模型を建てたという。台風で吹っ飛んでしまい、出雲大社倒壊の伝承に納得したというから、ぶっとんでしまいそうになる。
 学者なら敬遠しがちな忍者の伝承にまじで取り組んだり、武家のちょんまげが毛を抜くという血のにじむ苦行だったことを明らかにしたりする。それらも自分で漁った古文書史料に裏づけられているから、説得力がある。
 東日本大震災後、著者は将来に起こりうる地震津波の危険を歴史をさかのぼって調べる気になったという。国立大学を辞して東海地震への警戒がつのる浜松の私大に転職したのだから、子供心の初志をつらぬく心意気やよし。歴史学の在り方を考えさせる迫力もあり、心から楽しめる歴史書である。(凌)
    −−「今週の本棚:歴史の愉しみ方=磯田道史・著」、『毎日新聞』2013年02月24日(日)付。

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