覚え書:「発言 朝鮮学校差別 再考が必要」、『毎日新聞』2013年02月24日(日)付。




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発言 朝鮮学校差別 再考が必要
田中宏 一橋大名誉教授(日本社会論)

 2020年のオリンピック・パラリンピック開催地が9月に決まるため、東京都の猪瀬直樹知事は招致活動を本格化させている。そうした時に、都及び日本政府は朝鮮学校差別を続けていていいのだろうか。
 かつて、名古屋オリンピック招致に関連して、こんなことがあった。名古屋市は、東京や大阪では外国人にも開放されていた公立学校の教員採用に「国籍条項」を設け、受験を拒んでいた。民間の名古屋人権委員会は、国際オリンピック委員会(IOC)の委員宛てに英文の手紙を送り、「名古屋に重大な人権上の問題があることに留意し、候補地の審議に際してオリンピック運動の道徳的資質の向上に十分配慮されたい」と訴えた。81年9月、開催地はソウルに決まった。この手紙との因果関係は分からないが、国際社会では差別は許されない問題であることは肝に銘ずるべきだ。
 都は従来27校の外国人学校に生徒1人年額1万5000円の補助金を支給してきた。しかし10年度から、朝鮮学校10校だけに補助金を不受給とし、来年度予算も計上していない。学校側に不正があったわけではない。子供の教育問題と国際問題を混同してはならない。
 同じ年度から高校無償化法が施行され、高校だけでなく、専修学校及び外国人学校も対象とした。ブラジル学校、中華学校韓国学校、インターナショナルスクールなど39校の生徒は、公立校の授業料相当額の就学支援金を受けるようになった。
 しかし朝鮮学校だけは、対象にするかの判断が先送りされ、受領しないまま卒業した生徒は2年次に及ぶ。
 さらに安倍内閣が成立すると、下村博文文部科学相は、拉致問題の進展がないなどとして、朝鮮学校のみを排除するための高校無償化法施行規則を20日に改正した。同法は「教育に係る経済的負担の軽減」と「教育の機会均等に寄与」を目的」としている。こうした施行規則改正は同法の委任の範囲を逸脱していないだろうか。
 国連・人種差別撤廃委員会は、10年3月、日本政府の報告を審査した後の「総括所見」で、高校無償化からの朝鮮学校排除の動きに懸念を表明し、教育差別禁止条約(1960年採択、加盟100カ国)への加入を促した。しかし、国連の総括所見の懸念は、安倍政権によって現実のものとなってしまった。
 また、国連・社会権規約委員会への日本政府からの報告は、4月に本審査が行われる。同委員会からの事前質問には「在日コリアンの子供たちへの根強い差別に対応してとられた措置効果について情報を提供してください」などとある。朝鮮学校の女子生徒は民族服のチマチョゴリを着て通学していた。心ない日本人による嫌がらせや暴行を避けるため、そうした姿が見られなくなって久しい。
 オリンピック憲章には「差別はいかなる形であれ、オリンピックムーブメントとは相いれない」とある。朝鮮学校差別とオリンピックは両立しないのである。
 再考を促したい。(寄稿)
    −−「発言 朝鮮学校差別 再考が必要」、『毎日新聞』2013年02月24日(日)付。

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