覚え書:「書評:『アメリカ、ヘテロトピア 自然法と公共性』 宇野邦一著 評・宇野重規」、『毎日新聞』2013年03月03日(日)付。
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私たちは、本当にアメリカのことを知っているのだろうか。
なるほど、アメリカを語る言葉は無数にあり、一つひとつの説明はそれなりにもっともである。とはいえ、よくよく考えてみると、とたんにアメリカとは何かがわからなくなる。
自由と平等の国アメリカは、出発時から奴隷制と人種差別につきまとわれた国である。新たなビジネスとテクノロジーを追求するアメリカは、同時にきわめて宗教的な人々からなる国である。さらに理念と使命感の国アメリカは、実はもっとも赤裸々な力と力のぶつかり合う戦いの国でもある。
そのようなアメリカをどのように捉えるべきか。本書は独自の視点を提示する。すなわち、トクヴィルに始まりネグリに至るまで、異邦人のまなざしからアメリカを読み解く多様なテキストを著者は参照する。とはいえ、それだけなら前例がなくはない。
著者のオリジナリティは、選んだブックリストにある。とくにハンナ・アーレントの『革命について』と、D・H・ロレンスの『アメリカ古典文学研究』という、表面的にみれば、どこに関係があるのかまったくわからない二冊を中心に据えたのが目を引く。
アメリカの創設に公共性と「はじまり」の思想を見出みいだすアーレントと、アメリカ文学の基層にある法外な生命力に着目するロレンス。両者をつなぎ合わせる著者は、アメリカ社会の根底にある混沌こんとんと葛藤、そしてその自己生成力を見出す。描かれるのは、急進的でありながら遠心的である「あらゆる小国民のパッチワーク」としてのアメリカである。
アメリカはユートピアではない。ではないが、現実に存在するアメリカは、つねに私たちに今ある社会とは違うどこかへと向かうダイナミックな想像力を与えてくれる。アメリカを「ヘテロトピア」(他なる場所)と見るフランス思想研究者による、異色のアメリカ論である。
◇うの・くにいち=1948年生まれ。立教大教授(現代フランス文学思想)。著書に『ドゥルーズ 群れと結晶』など。
以文社 2600円
−−「書評:『アメリカ、ヘテロトピア 自然法と公共性』 宇野邦一著 評・宇野重規」、『毎日新聞』2013年03月03日(日)付。
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http://www.yomiuri.co.jp/book/review/20130304-OYT8T00914.htm