覚え書:「今週の本棚:明治神宮 『伝統』を創った大プロジェクト=今泉宣子・著」、『毎日新聞』2013年03月17日(日)付。




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今週の本棚:明治神宮 「伝統」を創った大プロジェクト
今泉宣子・著

(新潮選書・1575円)

 年間一千万人が参拝する明治神宮は、社だけでなく、高層ビルを望む七十二ヘクタールの杜の存在感が大きい。明治天皇の御息所を東京にという願いから造られたものだが、これは明治という時代の記憶の場でもある。西洋の近代知をとり入れた明治であるがゆえに、神社の「伝統」に連なりながらまったく新しいのである。杜は通常針葉樹だが、代々木の知で継続するにっは生態学的に見て広葉樹でなければならぬとされ、現在の主要樹種は楠、樫、椎である。自然林の如くみごとだ。これらを通して著者は、神宮造営プロジェクトに「永遠」というテーマを見る。明治神宮には内苑と外苑があるのが特徴であり、外苑には野球場や絵画館などもある。西欧で都市計画、建築、林業、美術など、新しい専門を学んだパイオニアがぶつかり合いながら理想を追求していく過程が興味深い。内苑は官、外苑は渋沢栄一を中心に民が支援した。まさに都市東京の未来を見すえた町づくりであり、世界への発信だったのである。今この地には百年を経た美しさがある。これからの百年は、何がテーマになるのだろうか。今はどんな町をつくればよいのだろうかと考える。(桂)
    −−「今週の本棚:明治神宮 『伝統』を創った大プロジェクト=今泉宣子・著」、『毎日新聞』2013年03月17日(日)付。

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