第27回卒業式、おめでとうございます。


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 ――ただ気の向くままに――
 おおそうだ。気の向くままに放浪さえしていれば、俺には希望があった、光明があった。放浪をやめて、一つ土地に一つ仕事にものの半年も辛抱することが出来ないのが、俺の性分であった。人にコキ使われて、自己の魂を売ることが俺には南京虫のように厭だった。人の顔色をみ、人の気持を考えて、しかも心にもない媚を売って働かなければならないことは、俺にはどうしても辛抱のならないことだった。だが、しかし不幸なる事に人間は霞かすみを喰って生きる術すべがない。絶食したって三日と続かない。とどのつまりは、やはり人にコキ使って貰って生きなければならない勘定になる。他人をコキ使おうッて奴には虫の好く野郎は一匹だってない。そこでまた俺は放浪する。食うに困るとまた就職する。放浪する、就職する、放浪する、就職する………無限の連鎖だ!
 ――生きるためには食わなければならぬ。食うためには人に使われなければならぬ。それが労働者の運命だ。どこの国へ行こうとも、このことだけは間違いッこのないことだ。お前ももういい加減に放浪をやめて、一つ土地で一つ仕事に辛抱しろ。どこまで藻掻もがいても同じことだ――
 と、友達の一人は忠告した、俺もそうだと思った。――だがしかし俺にはその我慢がない。悲しい不幸な病である。俺はいつかこの病気で放浪のはてに野倒のたれるに違いない。
    −−里村欣三「苦力頭の表情」、『日本現代文学全集 69 プロレタリア文学集』講談社、1969年。※初出は春陽堂 1927年。


苦力頭の表情

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昨日は勤務する短期大学の卒業式。門出を祝う桜花と陽光とめぐまれ、最高の卒業式になったのではと思いました。

卒業されるみなさま、さまざまな進路に進まれることと思いますが、出自や信条といった立場で、人間を扱うのではなく、あらゆる人間を人間として尊重することだけは忘れないで欲しいな……と。

今年の卒業生は、2011年3月11日の東日本大震災を経験後、入学された皆様です。新時代をになう若人たちに最敬礼したいと思います。

おめでとうございます。









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