覚え書:「今週の本棚・本と人:『桜ほうさら』 著者・宮部みゆきさん」、『毎日新聞』2013年04月21日(日)付。




        • -

今週の本棚・本と人:『桜ほうさら』 著者・宮部みゆきさん
毎日新聞 2013年04月21日 東京朝刊


 (PHP研究所・1785円)

 ◇筆跡の謎解きに恋を絡めて−−宮部(みやべ)みゆきさん

 主人公は古橋笙之介(しょうのすけ)、22歳。長屋暮らしの浪人。お家騒動に巻き込まれて切腹した父の汚名をすすごうと、近郊の小藩から江戸深川へやってきた。周りで起こる不思議な出来事を解決し事件の真相へと向かっていく。

 「桜と江戸を絡めた話を書きたかった。私なら長屋の花見だと。若い浪人者が登場すれば、面白くなり、恋もさせられる。貸本屋が繁盛し出版業が充実していた時代ですから、主人公の生業(なりわい)を写本作りにしました」

 文字を書く−−ユニークな道具立てによる謎が笙之介の前に立ちはだかる。父の死の原因となった偽文書。誰が書いた? 前藩主が残した奇っ怪な文字。何が書いてある? 拐(かどわ)かしを知らせる脅迫状。犯人像は?

 「書は人なり」。筆跡つまり人が「書くこと」への根源的な問いがちりばめられている。

 「『三島屋変調百物語』では『語り』について取り上げました。文字も語りと同様に人柄を表します。日本人にとって『書くこと』はとても意味のある行為でしたから、主人公の仕事を写本作りにしたのです」

 さらに「恋」という横糸が、物語を彩り豊かに織り上げる。

 仕立屋の娘・和香には身体と顔の左半分にあざがある。が、初対面で笙之介は「桜の精だ」と見とれて一目ぼれ。初々しい2人の気持ちが響きあう。

 「『やせたい』とか、『二重まぶたがいい』などと若い女性が思い悩んでいます。でも私は『恋ってそんなものじゃない』と言いたかった。外見は大したことではない。恋に落ちれば、あなたのほかに何も見えない状態に陥っているのですから」

 長屋でうごめく市井の人々のやさしい言動。が、物語の最後に笙之介の家族やさまざまな人々の冷酷さが明らかになる。

 「家族は揉(も)めているけれど、長屋の住人は皆、仲がいい。生活を共にする人とのやりとりが大切ということでしょうか」

 「桜ほうさら」は宮部さんの造語。「大変だったねぇ」という意味の山梨方言「ささらほうさら」をもじった。

 「500円玉貯金のように少しずつ書き継ぎました。そして桜の時期に本屋さんに並んだ。幸せな本です」<文・桐山正寿/写真・宮間俊樹>
    −−「今週の本棚・本と人:『桜ほうさら』 著者・宮部みゆきさん」、『毎日新聞』2013年04月21日(日)付。

        • -


http://mainichi.jp/feature/news/20130421ddm015070036000c.html








202

Resize0887_2


桜ほうさら
桜ほうさら
posted with amazlet at 13.04.27
宮部 みゆき
PHP研究所
売り上げランキング: 1,082