書評:E・ブリニョルフソン、A・マカフィー(村井章子訳)『機械との競争』日経BP社、2013年。



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 これらの例が示すように、パターン認識も複雑なコミュニケーションもいまや自動化が可能だとなれば、人間の能力でコンピュータに脅かされないものは、何かあるのだろうか。チェス盤の残り半分に進んでいっても、人間がしかるべき比較優位を維持できるものは何だろうか。いまのところ人間がまさっているのは、じつは肉体労働の分野である。人形ロボットはまだひどく原始的で、こまかい運動機能はお粗末だし、階段を転げ落ちたりする。したがって庭師やレストランのウェイターがすぐに機械に取って代わられる心配はなさそうだ。
 それに、肉体労働の多くが実際には高度な知的能力をも必要とする。たとえば配管工や看護士は一日中パターン認識能力や問題解決能力を要求される仕事だし、看護士の場合には患者や同僚との複雑なコミュニケーションも仕事のうちである。彼らの仕事を自動化することがどれほどむずかしいかを知るには、一九六五年の米航空宇宙局(NASA)の報告書を引用すれば十分だろう。この報告書は有人宇宙飛行を擁護する文脈で、次のように指摘している。「人間は非線形処理のできる最も安価な汎用コンピュータ・システムである。しかも重量は七〇キロ程度しかなく、未熟練の状態から量産することができる」
    −−エリック・ブリニョルフソン、アンドリュー・マカフィー(村井章子訳)『機械との競争』日経BP社、2013年、53−54頁。

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E・ブリニョルフソン、A・マカフィー『機械との競争』日経BP社、読了。本書は「技術の進歩によって人間の労働力がいらなくなり、失業が増えるのではないか」というラッダイト運動以来、繰り返された疑問に応える一冊。コンピュータの加速的な進歩は、機械が人間が駆逐する現在と言っても過言ではない。

経済学者はこの問題に「杞憂」と答えてきた。それは技術の進歩によって新しい仕事が生まれ新たな雇用機会となってきたから。労働力や資本の存在量が同じでも、技術革新は、より多くの生産物を生み出すから長期的な成長率を高くする。

しかし本書はこうした主張を一蹴する。著者は近年の情報技術の発展は雇用を奪っていると主張、技術の進歩が速すぎるからだ。これまでの調整メカニズムうまく機能しない。著者は「ムーアの法則」と「チェス盤の法則」からそれを説明する。

指数関数的に進むコンピュータの進歩は、雇用の減少のほか、置き換え不可能な領域における雇用の二極分化をもたらす。作曲家のような高所得を得られる「創造的な仕事」と低賃金の「肉体労働」。がそれである。

自動車は人間だけが動かしたが、グーグルの自動車は公道走行実験に成功したという。果たしてコンピュータは人間を凌駕するのか。本書の議論は説得的で、著者は楽観的提言を最後に付す。ただし疑問も残る。行く末を追跡したい。








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