覚え書:「書評:ソーシャル化する音楽 円堂都司昭 著」、『東京新聞』2013年5月19日(日)付。




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ソーシャル化する音楽 円堂都司昭 著

2013年5月19日

[評者]土佐有明=ライター
◆つながり遊ぶ道具に
 ソーシャル・ネットワークが発達した二〇〇〇年代以降、ポップ・ミュージックの楽しみ方は大きく変化した。例えば、動画共有サイトには、一般のユーザーが既存の曲に後から歌や踊りを当てはめた動画が溢(あふ)れており、それは時に原曲やその作者を凌駕(りょうが)する影響力を持つ。著者はこうした現象を「聴取」から「遊び」へという形容で説明する。
 古くは通信カラオケから、DJプレイ、エアギター、音楽ゲーム、i−Tunesによるランダム再生まで、周辺機器の充実により、音楽を玩具のように捉え、「遊び」に興じる傾向が加速している。また、アイドルの握手会や野外フェスの人気ぶりを見れば、音楽がコミュニケーションの媒介として機能していることも分かる。著者はこうした事象を列挙し、音楽が静態的な「観賞物」ではなく「つながり」の手段となった時代の空気を鮮やかに浮かび上がらせる。
 ポップ・ミュージックには実演や作品を聴衆が模倣する伝統がある。かつてビートルズに熱狂した若者は、その曲をコピーし、ファッションを真似(まね)た。だが著者の言う「遊び」はそうした素朴な憧憬(しょうけい)とは無関係に成り立つものだ。インターネットという遊び場の普及も手伝い、原作を改変する行為そのものが「創作」と認められるのが現代である。本書はそんな時代の空気を照らし出している。
 えんどう・としあき 1963年生まれ。音楽評論家。著書『ゼロ年代の論点』など。
青土社・1890円)
◆もう1冊
 渡辺裕著『聴衆の誕生』(中公文庫)。音楽の複製化・大衆化・商業主義などを通じて聴衆の変化を追った文化論集。
    −−「書評:ソーシャル化する音楽 円堂都司昭 著」、『東京新聞』2013年5月19日(日)付。

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