覚え書:「書評 少子化論 松田茂樹著」、『東京新聞』2013年5月19日(日)付。




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少子化論 松田茂樹 著

2013年5月19日

[評者]古田隆彦=現代社会研究所長
出生率回復の具体策示す
 わが国の少子化対策が一九九四年に開始されてから、すでに二十年になる。その効果なのか、合計特殊出生率(一人の女性が一生の間に産む子どもの平均数)は、二〇〇五年の一・二六から一一年の一・三九へと上昇した。だが、回復のペースは鈍化し、人口が維持できる二・〇七にはほど遠い。
 出生率の増減は、主に「結婚している人の割合」と「夫婦間の子どもの数」で決まる。一九六〇年ころまでは後者が主要因だったが、その後は前者の影響が大きい。ところが、従来の政策は「女性の進出などによって出産・育児期にも共働きを望む人が増えてきたが、保育所不足や育休などの両立環境が十分でない」という後者の視点で実施されてきた、と著者は指摘する。
 実態は違う。「若年層の雇用の劣化により結婚できない者が増えたこと及びマスを占める典型的家族(夫は就業、妻は家事)という男女の役割分担において出産・育児が難しくなっていること」が昨今の主要因なのだ。
 そこで、著者は政策転換として、若年層の雇用環境の改善、非正規雇用者の育休創設、子育て・教育の経済的負担の縮小、公教育の充実による家庭負担の軽減、仕事と子育ての両立支援、在宅子育て母親の再就職支援、祖父母との同居・近居支援、出生率回復の目標値設定などを主張する。
 内外の豊富なデータに基づく、詳細な分析と網羅的な提言は、家族社会学少子化対策論の到達点を示し、政策論としては十分に頷(うなず)ける。だが、幾つ実現できるのか。政府や経済界の支援だけで果たして効果が現れるのか。
 「産まれてくる子どもに今の時代で不足のない経済的な生活を与えられないと思えば、これから子どもを産む夫婦が出産を控えるのは当然」と著者はいう。ならば、人口が減ってもなお生活水準の落ちない、実現可能な社会像を堂々と示したらどうか。個々の支援策は大きな目標の中に組み込まれて、初めて効果を生むのだと思う。
 まつだ・しげき 中京大教授・家族論。著書『何が育児を支えるのか』。
勁草書房・2940円)
◆もう1冊
 中島さおり著『なぜフランスでは子どもが増えるのか』(講談社現代新書)。フランス人女性の生き方から少子化脱却の実情を探る。
    −−「書評 少子化論 松田茂樹著」、『東京新聞』2013年5月19日(日)付。

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