覚え書:「書評:フランス文学と愛 野崎 歓 著」、『東京新聞』2013年12月15日(日)付。

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フランス文学と愛 野崎 歓 著

2013年12月15日


◆性愛と純愛を両極に
[評者]芳川泰久=早稲田大教授
 「恋愛を主題としてフランスの文学について」という執筆依頼から、「あっという間に…歳月が流れた」と後記にある。それでも、出されたテーマに当意即妙に応ずる軽快感が、本書にはある。
 十六世紀のラブレーから二十世紀末までに書かれた<愛>にかかわるフランス文学の作品を、脈絡をつけながら論じることなど、一人でできるものではない。著者はそれを難なく成し遂げた。
 新書だから、平明な文言に徹し、恋愛がたどる軌跡をなぞるようにフランス文学を語ってゆく。恋愛が結婚を経て、家庭を持ち、出産を経験してゆくように。すると、十九世紀の写実主義自然主義あたりで、生まれた子供が父や母に虐待される悲惨な小説群に遭遇することになる。筆力のせいか、こちらまで紹介される小説の内容に意気阻喪ぎみになる。
 なかでも目を惹(ひ)くのは、快楽を奔放に語る十八世紀の作家たちだ。クレビヨン・フィス、ディドロ、サドの性愛を描く諸作と、ルソーの『新エロイーズ』やベルナルダン・ド・サン = ピエールの『ポールとヴィルジニー』の純愛を両極に据えて、まさに慧眼(けいがん)である。そこからモーパッサンの短篇ひとつで、祖母と孫娘の違いを際立たせ、時代の差異を描き分ける展開の妙。二十世紀ではデュラスへの言及が愛の物語の本質を突いていて、著者ならでは。嬉(うれ)しい一冊がまた増えた。
講談社現代新書・819円)
 のざき・かん 1959年生まれ。東京大教授。著書『異邦の香り』など。
◆もう1冊 
 工藤庸子著『フランス恋愛小説論』(岩波新書)。『感情教育』など恋愛小説五作について、愛の舞台や心理を解説。
    −−「書評:フランス文学と愛 野崎 歓 著」、『東京新聞』2013年12月15日(日)付。

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