書評:一坂太郎『司馬遼太郎が描かなかった幕末 松陰・龍馬・晋作の実像』集英社新書、2013年。




一坂太郎『司馬遼太郎が描かなかった幕末 松陰・龍馬・晋作の実像』集英社新書、読了。「司馬で歴史を学んだ」という人が後を絶たないように、日本人の歴史観に大きな影響を与えたのが司馬遼太郎。しかし司馬小説はあくまでフィクションであり歴史教科書ではない。

松陰はテロリストだし、龍馬一人で薩長連合を成し遂げた訳でもないし、晋作の奇兵隊も実像とは程遠い。本書は作品を読み解きながら歴史的事実との解離に迫る快著。根柢に流れるのは弱者を無視したヒロイズムで歴史を読み解く手法。英雄待望論で難挙打開への頼ろうとする精神文化は司馬遼太郎の副産物か。著者の手厳しい批判が痛快。

著者は司馬史観の問題を、特別な英雄が時代を変えてしまう「英雄史観」で貫かれていること、その人物を本人の好き嫌いで過大過小評価していること、そして重要な歴史的事件が意図的にスルーされていること、と指摘する。

司馬遼太郎を読むなということではないし、エンターテイメントとして受容することにやぶさかではない。評者自身、司馬の著作は殆ど読んでいるが「おもしろい」とは思う。ただしそれは「物語」としてのそれだけにすぎない。

そしてこの問題は司馬遼太郎だけに限られてしまう訳ではないが、どこか「ネットde真実」とつながっているような気もする。





『司馬遼太郎が描かなかった幕末 ——松陰・龍馬・晋作の実像』 |集英社新書





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