覚え書:「フランソワ・トリュフォーの映画  アネット・インスドーフ著 和泉涼一ほか訳」、『東京新聞』2014年02月09日(日)付。


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フランソワ・トリュフォーの映画  アネット・インスドーフ著 和泉涼一ほか訳

2014年2月9日


◆固有の言語を紐解く
[評者]荒尾信子=映画批評家
 子供、親、映画、女性、ときめき、書物、愛、苦しみ、死、そして狂気。トリュフォーの映画には生きることの全てが詰まっている。そのいくらかは彼の生きた時間そのものであり、残りのいくらかは彼が生きた時間と経験の探究と検証の成果である。トリュフォーは監督になる前の批評家時代に、「作家の映画(=作家主義)」というものを提唱し称賛したことで知られるが、自身の映画はどのように「作家の映画」となっているのだろうか? 映画は固有の映画の言語を持つことを力説した彼の映画は、どのような言語を使っているのだろうか?
 著者インスドーフは、そんなトリュフォーのシネフィル=批評家時代、彼が師と仰いだヒッチコックルノワールその他からの影響、作品中の諸々(もろもろ)のテーマと連関、それらを緻密に丁寧に紐解(ひもと)きながら、トリュフォー映画の秘密を解き明かしてくれる。論じる対象への慈しみに支えられたその詳細な読解と分析に導かれ、わたしたちも彼の映画をその深みのなかで生き直すことができるだろう。
 トリュフォーの新作公開に心ときめかせる楽しみを失って、久しい。歳月とともにその喪失の大きさが増大していくように思われるその死から早三十年。著者および翻訳者たちによって長い年月が費やされた労作である大部のこの本は、映画ファンへの喜ばしい贈り物である。
水声社・5040円)
 Annette Insdorf 1950年生まれ。米コロンビア大教授、映画研究。
◆もう1冊 
 山田宏一著『フランソワ・トリュフォーの映画誌』(平凡社)。多くの画像からトリュフォー映画の魅力と秘密を示す。
    −−「フランソワ・トリュフォーの映画  アネット・インスドーフ著 和泉涼一ほか訳」、『東京新聞』2014年02月09日(日)付。

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http://www.tokyo-np.co.jp/article/book/shohyo/list/CK2014020902000161.html





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フランソワ・トリュフォーの映画
アネット インスドーフ
水声社
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