覚え書:「くらしの明日 私の社会保障論 不十分な審議時間 地域医療・介護確保法案=本田宏」、『毎日新聞』2014年06月11日(水)付。

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くらしの明日
私の社会保障

不十分な審議時間
地域医療・介護確保法案

本田宏 埼玉県済生会栗橋病院院長補佐

 先進国最低レベルに抑制してきた社会保障関連の予算を充実させるため、国は「税と社会保障の一体改革」と称して消費増税を断行した。しかし、現在検討している「地域医療・介護確保法案」は、医療費抑制ありきで医療提供体制を弱体化させるだけでなく、介護保険の要支援者への訪問・通所介護を市町村事業へ丸投げするのではないかと危惧されている。
 このため、多くの医療関係者や患者が「患者の受け皿が足りない」「介護保険制度の入り口が狭められ、制度が後退する」などと懸念や批判の意見を表明している。先月7日の衆院厚生労働委員会に、この法案の参考人として出席した。「千載一遇のチャンス。日本の医療崩壊の根底に、医療費某国論による医療費と医師養成抑制があることを精いっぱい訴えよう」と思い、力が入った。
 だが、委員会の10日前、国会の担当者から届いた法案に関する分厚い資料を見て驚いた。提案理由を記した厚労省の資料(583ページ)や、法案提出の背景と経緯などをまとめた衆院調査局厚労調査室参考資料(278ページ)、医療従事者の勤務環境改善に向けた手法を調べた厚労省研究班の報告書(387頁)の3冊で、優に計1200ページを超えていたからだ。
 現場の窮状を訴えるチャンスと考え、参考人質疑の前に資料をしっかり読み込みたかったが、10日間で法律用語を含む難解な文章を精読、吟味することは不可能だった。果たして、厚労委の国会議員はどれだけ法案の詳細を理解したうえで、審議に臨んでいるのだろうか。
 参考人質疑7日後の先月14日に、法案は衆院厚労委で強行採決され、現在は参院で審議中だ。しかし、法案が衆院厚労委で審議されたのは、5日間でわずか28時間。参考人質疑と地方公聴会の11時間を合わせても39時間にとどまる。国民の命に直結する19もの重要法案なのに、1法案当たりの審議時間は平均2時間程度に過ぎなかった。
 「審議が不十分ではないのか」という私の懸念は、24日東京都内で開かれた医療事故調査委員会のシンポジウムで確認された。医療機関が医療事故調に報告すべき対象に、「死産」がいつの間にか入っていたのだ。毎年数多く発生する死産が対象に入れば、医療事故調が機能しなくなり、医療の萎縮も進むだろう。それにもかかわらず、参加した与党議員によれば、与党の法案審査過程では、この部分の議論がすっぽり抜け落ちていたのだという。
 国民の命に直結する重要法案について、審議時間が不十分なまま担当省庁の可決を急がされる政治。憲法25条が定める生存権を順守できない構図を、肌で実感した。

参考人招致 国会で専門的な案件や事件が議論の対象となった場合、その分野の専門家らに出席を求め、意見や見解を述べてもらうこと。証人喚問と異なり、出席するかどうかは本人が決められ、うそを述べても罪に問われない。
    −−「くらしの明日 私の社会保障論 不十分な審議時間 地域医療・介護確保法案=本田宏」、『毎日新聞』2014年06月11日(水)付。

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