覚え書:「今週の本棚・新刊:『親鸞 既往は咎めず』=佐藤洋二郎・著」、『毎日新聞』2014年07月13日(日)付。
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今週の本棚・新刊:『親鸞 既往は咎めず』=佐藤洋二郎・著
毎日新聞 2014年07月13日 東京朝刊
◇『親鸞(しんらん) 既往は咎(とが)めず』
(松柏社・1728円)
浄土真宗の開祖の若き日を描く長編小説。比叡山での修行を捨てて法然の門に入ったが、既成仏教からの攻撃を受けて越後に流された。親鸞が流罪になった舟の場面から小説が始まり、越後の人々との交流を経て、坂東での布教をめざして旅立つまでを描いている。
佐藤洋二郎の小説には肉感のこもった、しかし、しなやかな文章で、人間というものの孤独や悲哀、喜びや希望をつづったものが多い。そして、人生のどうしようもなさに記述が及んだり、魔がさしたような瞬間をとらえたりする時に、深い奥行きを感じさせる。2度読むと、2度目が楽しい作品群なのだ。
そんな筆で親鸞の苦悩と迷いの日々がつづられていく。背景には公家や貴族から武士の社会へと移り変わっていく大きな時代のうねりがある。都は荒れているが、越後は人々が日々を心豊かに暮らしている。
地元のしたたかな豪族とのやりとり。そこで暮らす老若男女との会話。そして、新しい恋愛。越後の風土に包まれた彼の思考は、過去の痛切な体験を振り返りながらも、ジグザグに深まっていく。その過程を追うのが楽しい。(重)
−−「今週の本棚・新刊:『親鸞 既往は咎めず』=佐藤洋二郎・著」、『毎日新聞』2014年07月13日(日)付。
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http://mainichi.jp/shimen/news/20140713ddm015070019000c.html