覚え書:「書評:瀬戸内海モダニズム周遊 橋爪 紳也 著」、『東京新聞』2014年07月13日(日)付。

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瀬戸内海モダニズム周遊 橋爪 紳也 著

2014年7月13日

観光で開かれる時代
[評者]岡村民夫=法政大教授
 江戸後期から明治初期に来日した西洋人らが、本州・四国間の灘の連なりとしてしか認識されてこなかった海域を一まとまりの内海・多島海として発見し、「世界の公園」と顕揚する。このヴィジョンの受容を通して<瀬戸内海>が誕生し、一九三四年、瀬戸内海は我が国初の国立公園に選定されるに至った。と論じた西田正憲の名著『瀬戸内海の発見』を、橋爪紳也はしっかり踏まえている。
 ただし、本書の類いない特色は、明治から戦前までのモダンな瀬戸内海観光開発を担った交通機関、観光業者、地方名士、メディアなどの極めて具体的な紹介や、伝統的な名所と観光モダニズムが結びつく経緯のクローズアップにある。その際、著者お得意の妙技が披露される。多年収集した膨大な「紙もの」(鳥瞰(ちょうかん)図、絵葉書(えはがき)、ポスター、雑誌等)が融通無碍(ゆうずうむげ)に引用され、豊富な図版を通して時代の空気が立ち昇るのだ。
 瀬戸内海周遊航路を開拓した大阪商船とそのPR誌『海』が繰り返し登場する。海から陸を捉えなおす視点は地域や領域の枠をかいくぐる。例えば九州の別府温泉の「地獄巡り」の形成と、大阪や松山の近代化とのつながりが露(あら)わになる。
 国立公園選定八十年を記念する本書は、船による島巡りアートツアーや村上水軍関連地巡りといった新たな瀬戸内海観光の動向とも無縁ではないだろう。
(芸術新聞社・2700円)
 はしづめ・しんや 1960年生まれ。大阪府立大教授。著書『日本の遊園地』。
◆もう1冊 
 武田尚子著『「海の道」の三○○年』(河出ブックス)。江戸から現代まで瀬戸内海の漁業や交易、産業の歴史を解説。 
    −−「書評:瀬戸内海モダニズム周遊 橋爪 紳也 著」、『東京新聞』2014年07月13日(日)付。

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http://www.tokyo-np.co.jp/article/book/shohyo/list/CK2014071302000177.html





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瀬戸内海モダニズム周遊
橋爪紳也
芸術新聞社
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