覚え書:「書評:昭和ノスタルジアとは何か 日高 勝之 著」、『東京新聞』2014年07月13日(日)付。


3_2

        • -

昭和ノスタルジアとは何か 日高 勝之 著

2014年7月13日

◆郷愁誘う作品に潜む批判
[評者]藤井淑禎=立教大教授
 本書の核となっているのは、映画『ALWAYS 三丁目の夕日』の大ヒットに象徴される二十一世紀初頭における懐古的な昭和三十年代ブームの画一性に対する批判である。だが終盤では日航機墜落事故、バブル期、三億円事件連合赤軍あさま山荘事件、革命の季節としての一九六八年、さらには原発問題へと、次から次へと扱う対象が広がっている。大著だが、さいわい目次はもちろん本文中の小見出しも充実しているので、読者は関心のあるテーマから読み始めることもできる。
 書名にもなっている「昭和ノスタルジア」は、昭和三十年代だけでなく、その前後の時代を描いた作品をも含めるために採用された呼称だが、ここでは著者がもっとも力を込めて論じている『ALWAYS 三丁目の夕日』『東京タワー オカンとボクと、時々、オトン』と、『プロジェクトX』『フラガール』『クレヨンしんちゃん』『20世紀少年』という二組の作品の比較を中心に紹介してみよう。
 著者が問題視するのは、昭和三十年代を無批判で肯定する論評群の画一性だけでなく、昭和ノスタルジアの作品群がこれまできちんと分析されてこなかったという点だ。著者によれば、前述の二組の作品には、世評とは裏腹にいずれも高度成長期への批判性が見て取れるという。前者においては高度成長以前の「未完」を描くことで完成形を批判し、後者においてはモラトリアム世代に属する作品の作り手たちがみずからの自己総括の意図のもとに、高度成長期の「達成」に対して、さらには「戦後パラダイム」に対して批判を突きつけたのだと説く。
 特に後者の分析は、著者自身がモラトリアム世代に属することもあって精彩に富み、インターネットの掲示板やブログから探った一般層の受容動向も作り手の批判意識に沿うものであったとの結論も、方法の新しさと相まって説得力がある。新たなメディア学の出現を感じさせる好著と言ってよい。
世界思想社・3996円)
 ひだか・かつゆき 1965年生まれ。立命館大教授、メディア学。
◆もう1冊 
 関川夏央著『昭和三十年代 演習』(岩波書店)。具体的な作品や出来事を読み解き、昭和三十年代の実相と歴史のあり様を検証する。 
    −−「書評:昭和ノスタルジアとは何か 日高 勝之 著」、『東京新聞』2014年07月13日(日)付。

        • -




http://www.tokyo-np.co.jp/article/book/shohyo/list/CK2014071302000178.html





Resize1604


昭和ノスタルジアとは何か
日高 勝之
世界思想社
売り上げランキング: 2,024