拙文:「書評:南原繁研究会編『南原繁と国際政治 永久平和を求めて』 南原繁に学ぶ『現実』を『理念』に近づける営み」、『第三文明』2014年10月、第三文明社、94頁。

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書評
南原繁と国際政治 永久平和を求めて』
南原繁研究会編
EDITEX 定価2,000円+税

南原繁に学ぶ「現実」を「理念」に近づける営み

 先哲の思索に学ぶとは一体どういうことだろうか。それは無批判にありがたく御輿(みこし)を担ぐことでもなければ、限界を指摘することで「超克(ちょうこく)」したと錯覚することでもない。学び手がその理想を継承し、現実世界の中で創造的に活(い)かしていくことに要がある。その思索と実践を続ける本書の南原繁研究会は「学び」の美しき模範と言ってよいだろう。
 南原繁とは、戦後日本の「良質さ」をグランドデザインした思想家の一人だ。その「理念を持って現実に向かい、現実の中に理念を問われ」た精神に学び、未来を展望する市民と研究者の集まりが南原繁研究会だ。月に一度の読書会と毎年開催するシンポジウムは今年で一〇年になるという。本書は昨年一一月に開催された第一〇回シンポジウムの記録と研鑽(けんさん)の成果を収録したものだ。地道な努力はまさに「継続は力」という他ない。
 国際政治への学問的関心から南原繁の学問的生涯は始まる。講演「南原繁と国際政治」(三谷太一郎)はその消息を明らかにする。「国際政治学への非実証的アプローチ」で接近する南原の国際政治学とは、政治的立場と哲学的立場の不断の対話である。後年「現実的理想主義者」として活躍する南原の原点を見ることができる。パネル・ディスカッションでは、カント、フィヒテ丸山眞男をキーワードに、南原の理想と限界を提示する。本書は秀逸な論功を数多く収録するが、石川信克氏の「国際保険医療協力の平和論的意義」が中でも印象的だ。開発途上国への健康問題への氏の取り組みの実践は、南原繁の精神を活かそうとの発露であると報告する。
 近年、「日本国憲法と旧教育基本法とに体現された戦後の理念や体制を葬(ほうむ)ろうとする」軽挙妄動(けいきょもうどう)が目に付く。戦後の日本社会はその崇高(すうこう)な理念をどこまでも活かし切れていないのが現状だから「戦後レジームからの脱却」などとは笑止千万(しょうしせんばん)だ。「戦後の理念をわれわれがどう活かし直すかを考える上で、大きな指針」になる南原に今こそ学びたい。
東洋哲学研究所委嘱研究員・氏家法雄)
    −−「書評:南原繁研究会編『南原繁と国際政治 永久平和を求めて』 南原繁に学ぶ『現実』を『理念』に近づける営み」、『第三文明』2014年10月、第三文明社、94頁。

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