書評:仲正昌樹『精神論ぬきの保守主義』新潮選書、2014年。

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仲正昌樹さんの『精神論ぬきの保守主義』新潮選書をちょうど読み終えた。保守とは字義の通り「古くからあるもの」を“守る”思想的系譜のことだが単純にあの頃は良かったと同義ではない。本書は近代西洋思想におけるの伝統を振り返りながら、現下の誤解的認識を一新する好著。まさに「精神論ぬき」です。

仲正昌樹『精神論ぬきの保守主義』新潮選書は6人の思想家を取り上げる。ヒューム(慣習から生まれる正義)、バーク(相続と偏見による安定)、トクヴィル(民主主義の抑制装置)、バジョット(無駄な制度の効用)、シュミット(「法」と「独裁」)、ハイエク(自生的秩序の思想)。

6人の思想家の保守を横断すると、保守主義とは「取り戻す」ものではない。現在の社会を安定させている制度や慣習に注目し、できるだけ抽象的思考態度のラディカルさを退けていこうという透徹した現実主義。極右も極左も観念的ユートピア主義に他ならない

ヒュームにはじまる保守主義とは、私たちが安定して暮らして「いる」制度を、「いける」制度へと、外側からではなく歴史的な経験を通じての内側からの改革を不断に追求するものだ。徹底して精神論を排した漸進的改革論といってもよい。

美しい国土」や「大和魂」といった言葉も自称保守が忌み嫌う外側からの変革の抽象性と同じである。今の地平に足をつけて未来を展望するのが保守主義の「現実さ」とすれば、日本社会において、保守すべき伝統や制度や思想はあるのだろうか。今読むべき本。 

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 これまで見てきたように、ヒューム以来の制度的保守主義は、社会を安定させている制度に注目し、それを出来るだけ守っていこうとする。すでに失われてしまった過去の文化や伝統を−−自分たちの趣味に合わせて−−美化した形で復興さえようとはしたりはしない。そのような観念的でユートピア(どこにもない場所)的な過去のイメージを、現実の政治に持ち込めば、人々に非現実的な理想を追求させ、社会の不安さを増すだけである。シュミットは、そういう態度を「政治的ロマン主義 politische Romantik」と呼んで徹底的に批判した−−シュミットの「政治的ロマン主義」批判については、前掲拙著『カール・シュミット入門講義』を参照されたい。
 現実に存在する制度の安定化作用にさほど関心を持たず、資本主義的価値観にも社会主義的価値観にも汚染されていない“純粋な日本らしさ”を求めることが多い日本の保守派は、「政治的ロマン主義」にはまりやすい。憲法や法律に、「国を愛する心」を培うことをスローガン的に掲げることによって、“日本らしさ”を回復できると考えているとすれば、それは、保守というよりはむしろ、自分たちの青写真を元に社会を改造しようとする設計主義の発想だろう。
    −−仲正昌樹『精神論ぬきの保守主義』新潮選書、2014年、234−235頁。

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