覚え書:「書評:世界陰謀全史 海野 弘 著」、『東京新聞』2014年12月07日(日)付。


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世界陰謀全史 海野 弘 著

2014年12月7日


◆虚実ない交ぜの系譜
[評者]田中聡=作家
 フリーメーソンテンプル騎士団、薔薇(ばら)十字団、イルミナティという陰謀論の定番の秘密結社から、神智学、黄金の夜明け団などのオカルト結社、心霊主義ナチスのオカルト研究と科学、ユング心理学アメリカのニューエイジ運動など、陰謀論の今日の新たなステージにいたるまでの系譜を広くたどった文化史だ。陰謀論やその対象とされた結社と、芸術思潮、政治運動との関わりや、多彩な登場人物の思いがけないつながりに驚かされ、知的刺激に満ちていて楽しい。
 陰謀論の源には、多くの空想がある。だが著者は陰謀論を否定はしない。むしろ陰謀論に「人間という存在の不思議さ」を感じ、惹(ひ)かれるという。陰謀論を通して見える世界は偏向している。だが偏りや歪(ゆが)みこそが人間の生だ。人はみな空想と事実とが織り合わされた現実を生きている。その生の輻輳(ふくそう)が歴史を作ってきた。空想もまた歴史となる。
 ただし「現代の陰謀論は一方でUFOやアトランティス、超古代史、オカルトに向かい、ファンタジー性を高めていくとともに、もう一方では体制にとりこまれ、国策を支える論理に使われている」と、現状への危惧も記されている。今後、陰謀論の主舞台は欧米からアジアへ移ってくるのではないかともいう。ここにも、我々が陰謀論をただ否定するのでなく、その歴史ごと理解すべき理由がある。
朝日新聞出版・2052円)
 うんの・ひろし 1939年生まれ。評論家・作家。著書『ヨーロッパの図像』など。
◆もう1冊 
 ジョエル・レヴィ著『世界陰謀史事典』(下隆全訳・柏書房)。秘密結社・スパイなど歴史の裏面を彩る陰謀の事典。
    −−「書評:世界陰謀全史 海野 弘 著」、『東京新聞』2014年12月07日(日)付。

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