覚え書:「【書く人】読むことで表現を探る  『偏愛蔵書室』作家 諏訪 哲史さん(45)」、『東京新聞』2014年12月07日(日)付。

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【書く人】

読むことで表現を探る  『偏愛蔵書室』作家 諏訪 哲史さん(45) 

2014年12月7日


 「書くこと」は「読むこと」。これは諏訪哲史さんが持ち続ける信念だ。創作とは「この世界や自分の生をどのように見たかなんです」。中日新聞での四年二カ月に及ぶ連載を収録した一冊が示すのは、百人百様の世界の写し方。
 二〇〇七年に「アサッテの人」で芥川賞。前提には一万冊に及ぶ読書経験がある。その中の百冊を語ると、そのまま自叙伝的な評論集となった。ホフマンスタールに始まり、丸尾末広大泉黒石ジャン・レイ、尾崎放哉…。「他人の世界の見方、読み方に驚き、自分の凡庸さを思い知らされた。百一人目の表現者になるには、ここまで突き抜けなければいけないのかと。屈辱によって僕はつくられた」
 例えば、ポオル・モオランの『夜ひらく・夜とざす』。作家は、車がでこぼこ道を疾走する様を「…この穴だらけのリボンを燃やしながら走つた」ととらえ、パリの古書露店が並ぶ情景を「書物が氾濫を防いでゐるセエヌ河…」と見た。
 他の芸術で言えば、「ゴッホはひまわりを、セザンヌはリンゴをあの有名な絵のように見た」ということ。書く前に読む欲求があるのも「音楽を聴きたい人が演奏家に、映画を見たい人が映画監督になるのでは」と問う。肝要なのは「世界の反射板としての自分をいかに磨くか」。
 この一冊では「物語より描写、内容より文体」を重視し、「逸脱」「屈折」を象徴する引用を選び抜いた。「読者が持つルールをどう破るか。人前で見せられない、あえて腹の中におさめている矛盾こそが文学では生かせる」と強調する。
 もともと小説を書いたのは、恩師の故種村季弘氏に認めてもらうため。「あこがれの先生のやってきたことを、自分でも成せた意義深い本。これは小説家の身体を使い、現実の本を媒体にしたノンフィクションです」
 先駆者の表現に触れ、わき上がるのは「荒野に立っているような絶望」。だが、「たくさん読むことで一人だけの影響下から逃れることができる。全方位に引っ張られるからこそ、その先に独自の文体がある。読むことから逃げたら僕は小説を書けない」と話す。
 いま構想中なのは「ありふれた恋愛小説」という。「裏の裏は表になるのか。自らを裏切れる作品ができるのか試したい」。諏訪さんの迷宮探索は続く。
 国書刊行会・二七〇〇円。 (石屋法道)
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