書評:ミシェル・ワルシャウスキー(脇浜義明訳)『国境にて イスラエル/パレスチナの共生を求めて』つげ書房新社、2014年。

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ミシェル・ワルシャウスキー(脇浜義明訳)『国境にて イスラエルパレスチナの共生を求めて』つげ書房新社、読了。「越えてはならない国境もあれば、むしろ破るべき国境もある」。本書はマツペンを経てAICで反シオニズム闘争を続ける「国境をアイデンティティとする革命家」の半生記。

シオニズムを知らずアラブを脅威としか感じないナイーヴかつ敬虔なユダヤ教青年が、イスラエルに渡り、同地の最左翼ともいうべき反シオニズム闘争を続ける原点は、故郷ストラスブールユダヤ人コミュニティでの体験に由来する。

ホロコーストの追悼行事の折り、ニガーという差別用語を何気なく使って大人から強打された。そこから「貧しい人々、弱い人々、身分の低い人々に自分を一体化させるのは、私のユダヤアイデンティティの一部となっていた」という。

著者はイスラエル本国のホロコーストアイデンティティの限界をユダヤ人中心主義に見て取る。人道に対する罪の認識がないから、ナチと同じような残虐行為をパレスチナ人には平然と行い、批判者を「ナチ」と罵倒するのがイスラエルアイデンティティ

「他者である非ユダヤ人も被害者になり得ることを認めることが、シオニズム言説と袂を分かつ重要な一歩である」。アンチ・テーゼ関係にある価値観の間には通行不可能な国境があるが、人や文化の交流や共存を禁じる国境は否定すべきである。

著者の常人ならざる歩みは、まさに「過激」といってよい。しかし「過激」にならなければ、“常識のドクサ”が秘めるより重大な暴力性を暴くことは不可能であろう。柔軟かつしなやかに現世の重力を撃つ、今読むべき1冊。




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国境にて―イスラエル/パレスチナの共生を求めて
ミシェル ワルシャウスキー
柘植書房新社
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