覚え書:「書評:<階級>の日本近代史 坂野 潤治 著」、『東京新聞』2014年12月14日(日)付。

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<階級>の日本近代史 坂野 潤治 著

2014年12月14日
 
◆対抗軸を抽出し捉え直す
[評者]成田龍一日本女子大教授
 冒頭、著者は、かつて日本の「革新勢力」は「平和」と「自由」の擁護に熱心だったが、「国民の生活」を向上させてきたのは保守であったという認識を示す。リアリズムの眼だが、あり得べき理念から歴史を描くのではなく、具体的にあった歴史を読み解いて行くという態度にほかならない。著者はすでに、こうした姿勢から実証的な叙述をなしてきたが、その蓄積を踏まえて本書が書かれる。
 いまひとつ、著者が試みるのは、歴史の書き換えである。「いま」をあきらかにするための歴史は「いま」の問題意識によって書きなおされる必然性をもつ。この関心を有する本書は、明治維新から総力戦期までを対象とし、政治的平等の追求の動きとともに、「社会的不平等」−「格差の是正」の視点が盛り込まれることとなった。
 本書で展開される筋道と解釈−政治のなかに、社会集団として、士族、農村地主、資本家が登場し、順次主導権が推移していくこと、さらに「階級」が多様化し、戦時に入り込むにいたる叙述は明快である。その叙述の特徴は、いくつかの政治的対抗軸を抽出し、それを組み合わせることによって同時代の政治史を読み解いてみせることにある。政治史上の出来事をはじめ、政党間の対抗も「軍備縮小か、大衆課税か」「大きな政府か、小さな政府か」などと捉えられ、読者はあらためて、政治史的出来事の「階級」的な意味を知ることになろう。
 こうしたとき、焦点のひとつは総力戦(=第二次世界大戦)の評価である。総力戦のもとで小作人の生活水準があがり「平等」化が進んだことをどのように評価するのか、と著者は問う。だが、ここで進行したのは(平等化ならぬ)「均一化」ではなかろうか。
 著者は、本書の営みを「階級史観」の復元という。しかし選挙分析が主であり、かつての「階級史観」が重視した社会運動は切り捨てられている。ここにも、著者のリアルな眼がある。
講談社・1620円)
 ばんの・じゅんじ 1937年生まれ。東京大名誉教授。著書『日本近代史』など。
◆もう1冊 
 橋本健二著『「格差」の戦後史 増補新版』(河出書房新社)。格差と階級構造の視点で戦後史を描く。新たに地域間格差などを考察。
    −−「書評:<階級>の日本近代史 坂野 潤治 著」、『東京新聞』2014年12月14日(日)付。

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