覚え書:「書評:失われた日本の景観 浅見 和彦・川村 晃生 著」、『東京新聞』2015年03月08日(日)付。

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失われた日本の景観 浅見 和彦・川村 晃生 著

2015年3月8日
 
◆風景が持つ力を再考
【評者】金田章裕=京都大名誉教授
 「経済や効率のツケを自然や景観にまわして」生きてきたことに警鐘を鳴らした書である。建築物の五重塔に始まり、九十九里浜田子の浦などの海浜伊豆半島や高尾山などの山野、琵琶湖や巨椋池おぐらのいけ)などの湖沼と川、新宿や慶応義塾などの都市の構成部分など、日本各地のさまざまな景観が取り上げられている。
 著者の視点の基礎には、『古事記』に始まる歴史や文学の古典、さらには著名な短歌・俳句などはもとより広重の浮世絵などを通じて、これらについての、伝統的で本質的な認識への省察がある。
 取り上げられた各地の変化の多くは、「いつのまにかコンクリートによって国土は固められ、美から醜へと変わっていった」怒濤(どとう)の流れ、の雄弁な例証でもある。また、例えば移設や復原のような安易な文化観への本質的な疑問でもある。著者の視角はさらに、誰の傍らにでもいた雀(すずめ)を見つめる風景の意味や、さらには緑なしてきた山野における広範なナラ枯れの原因にまで及ぶ。
 単なる悲嘆ではない。「景観に育まれる人間」を取り上げ、「景観の力」の考察に及んでいる。「かつての日本人が景観や自然をどのように捉えていたのか」という、いわば「景観の原点」について「じっくりと再考してみること」こそ、現代的な景観上の課題に対しての対処の喫緊の第一歩と主張する。
緑風出版・2376円)
あさみ・かずひこ 成蹊大名誉教授。
かわむら・てるお 日本景観学会副会長。
◆もう1冊 
 アレックス・カー著『ニッポン景観論』(集英社新書)。美しい景観を取り戻すための方策を東洋文化研究者が提言。
    −−「書評:失われた日本の景観 浅見 和彦・川村 晃生 著」、『東京新聞』2015年03月08日(日)付。

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http://www.tokyo-np.co.jp/article/book/shohyo/list/CK2015030802000194.html



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失われた日本の景観―「まほろばの国」の終焉
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