覚え書:「書評:議会は踊る、されど進む 谷 隆一 著」、『東京新聞』2015年04月05日(日)付。
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議会は踊る、されど進む 谷 隆一 著
2015年4月5日
◆人任せ地方政治の再考を
【評者】五野井郁夫=政治学者
市民が政治への関心を失うと政治はどうなるか。いわば「市民不在」となったとき、地域政治がどのような軌跡をたどったかについて、本書は東京都内の事例から具体的に教えてくれる。
東久留米市では、大型ショッピングモールの誘致反対という地元の声を公約にした市長が就任後に掌(てのひら)を返した。さらに議会との対立が色濃くなると三百八十八億円もの通年予算を、市長一人の専決処分で決定するという暴挙に出た。だが、議会側も市長に対して法的拘束力のない辞職勧告決議は出したものの、各議員の保身のためか議会の解散と引き換えに市長を失職に追い込む不信任決議は行わず、その結果、市長は任期を全うすることとなった。
日本の地方自治は市民が首長と議会の議員を選出する二元代表制という仕組みをとっている。この制度の下で首長は強い権限を有し、議会は監視機能を担うものの、首長と議会が膠着(こうちゃく)状態に陥った時、政治を動かすのは他でもない市民自身である。政治を機能させるべく、市民によるリコール(解職請求)等の直接民主主義的な権利行使を制度内に組み込んでいるのが、日本の地方自治の特徴だ。われわれの半径数キロ以内の政治は、首長、議会、そして市民の三者が権利を行使して、はじめてうまく機能するのだ。市民による権利行使がなければ市民参加の不在がそのまま「民意」となってしまう。
実際に小平市では、都道建設をめぐる都内初の住民投票が行われた。その成立要件は同市長選の投票率37・28%よりも遙(はる)かに高い50%とされた。約三千万円の税金がかかったものの投票率は35・17%であり、開票すら行われなかった。賛成・反対すら明らかにされないのはどうにも納得がいかないが、この結果に対する怒りを忘れずにいられるか否かは市民次第だ。
おりしも統一地方選挙である。これまでの市民不在、他人任せの地方政治を考え直すうえで、近年の具体例が豊富な本書は導きの一冊となるだろう。
(ころから・1728円)
たに・りゅういち 1974年生まれ。地域紙「タウン通信」代表取締役。
◆もう1冊
幅健志著『帝都ウィーンと列国会議』(講談社学術文庫)。「会議は踊る、されど進まず」と評されたウィーン会議の全容を描く。
−−「書評:議会は踊る、されど進む 谷 隆一 著」、『東京新聞』2015年04月05日(日)付。
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http://www.tokyo-np.co.jp/article/book/shohyo/list/CK2015040502000208.html