覚え書:「今週の本棚・本と人:『それを愛とは呼ばず』 著者・桜木紫乃さん」、『毎日新聞』2015年04月12日(日)付。

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今週の本棚・本と人:『それを愛とは呼ばず』 著者・桜木紫乃さん
毎日新聞 2015年04月12日 東京朝刊


 (幻冬舎・1512円)

 ◇誰も悪い人はいないのに 桜木紫乃(さくらぎ・しの)さん

 『ホテルローヤル』で直木賞に選ばれたのが、2013年7月。選考当日の午前2時に書き上げ、結果を待つ席で担当編集者に渡したのが本書の第1稿。その直後、受賞が決まり取材やテレビ出演が相次いで半年近く小説執筆から遠ざかった。「半年休んだ腕を戻すのに1年近くかかりました」と苦笑い。

 新潟で手広く事業を展開する女社長の「後妻」ならぬ「後夫」で、副社長だった伊澤亮介、54歳。10歳上の妻が事故で再起不能になるや、生(な)さぬ仲の息子に会社を追われ、北海道でリゾートマンションを売るはめに。一方、キャバレーで働きながらタレント業にしがみついていた白川紗希は、仕事に見切りをつけて故郷北海道を目指す。この2人の出会いが思いもかけない「愛」を生み出す。

 「幸も不幸も人の数だけあるということをずっと書いてきました。愛も人の数だけある。何をもって愛を確信し、愛情を形にしていくのか−−言葉にするのは難しい。そんなところを書いたということでしょうか」

 亮介は女社長のサポートに徹し、意に染まぬ仕事にも淡々と取り組む。「与えられた場所で一生懸命やろうとしている。これ、働く人としては普通のことですよね」。紗希も成功しなかったが、いつタレントの仕事が来てもいいように精進を欠かさない。「自分に引き比べて、書いているのがつらかった。私も以前、仕事になるかどうかわからない原稿を送り続けました。こういう時は、諦めないことがよりどころ」

 「2人を取り巻く人々を含め、誰も悪い人はいない」。それなのに行き詰まったり、とんでもない状況に陥ったり。生きることのこうした姿を一貫して追いかける。今回の物語のエンジンは紗希の変貌だ。彼女を動かしたスイッチは故郷にあった。何気なくそれを見せられ、作家の術中にはまっていく。

 1作ごとに課題が出てくるという。直木賞受賞後の去年は、「(出来によって)この仕事が続けていけるかどうか決まると、ドキドキしていた。怖くて怖くて、あんなに怖い思いをしたのは久しぶり」と明かす。そしてまた、新たな長編への取り組みが始まる。<文・内藤麻里子 写真・藤原亜希>
    −−「今週の本棚・本と人:『それを愛とは呼ばず』 著者・桜木紫乃さん」、『毎日新聞』2015年04月12日(日)付。

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http://mainichi.jp/shimen/news/20150412ddm015070042000c.html



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