覚え書:「書評:遊廓のストライキ 山家 悠平 著」、『東京新聞』2015年04月12日(日)付。

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【書評】

遊廓のストライキ 山家 悠平 著

2015年4月12日



公娼制度の悲惨さを実証
【評者】渡邊澄子=近代文学研究者
 カバーの格子からストライキ成功に万歳する娼妓(しょうぎ)たちが透けて見える装幀(そうてい)が興味をそそる。くまなく調べた地方紙の記事・図版をはじめ、膨大な資料の引用も多い。従来の女性史の廃娼運動は外側からの視点で描かれているが、本書は遊廓(ゆうかく)の女性たちを内側から見て公娼制度の実態を検証しようとの意図に立つ画期的な発想による論である。
 構成は、「芸妓・娼妓を取り巻く環境」「遊廓のなかの女性たち」「一九二六年の大転換」「実力行使としての逃走」「逃走からストライキへ」の五章から成る。娼妓の罷業報道の最初は『大阪朝日新聞』(一九二五年八月一日)による大阪・松島遊廓だったらしい。大正デモクラシーの潮流下で昂揚(こうよう)期にあった労働運動と無縁ではないだろう。逃亡の知識はあったが、罷業がこれほどあったとは知らなかった。
 本書でも引かれているが、十九歳で吉原に売られた森光子(春駒)の、遊女の生活に堪えきれず、柳原白蓮を頼って決死の逃亡をするまでの日記『光明に芽ぐむ日』(『吉原花魁(おいらん)日記』)と、これを読んだ仲良しの千代駒が仲間と五日間「同盟罷業」をしたことを知らせる手紙なども収めた『春駒日記』の両書は、地獄の生活を強いられた「復讐(ふくしゅう)」から書いたとある。
 文章は稚拙だが、娼妓自らが遊廓の生活を赤裸々に描いたものとして希有(けう)でかつ貴重な資料的価値をもつ。ここには四十時間ぶっ通しで十二人の客を取らされたともある。娼妓とは売春を公許された「女郎」のことで、花魁とは「姉女郎の称」という。花魁の悲惨な内実を知った今、一葉の『たけくらべ』は読み直さねばならない。
 男の性欲処理・慰安のため女性を性奴隷として公認した公娼制度(慰安婦問題にも直結する)は一九五六年の売春防止法で終わったとされているが、現在も形を変えて密(ひそ)かに続いている。本書の綿密な実証で多くを知り得たことに感謝するが、買春を求める男の問題としても突っ込んで欲しかった。
(共和国・3456円)
 やんべ・ゆうへい 1976年生まれ。日本近代女性史研究者。
◆もう1冊 
 村田喜代子著『ゆうじょこう』(新潮社)。廓(くるわ)が作った学校で読み書きを習い、ストライキを起こした明治の娼妓たちを描く物語。
    −−「書評:遊廓のストライキ 山家 悠平 著」、『東京新聞』2015年04月12日(日)付。

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