覚え書:「書評:火花 又吉 直樹 著」、『東京新聞』2015年04月12日(日)付。

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火花 又吉 直樹 著

2015年4月12日


◆漫才師の青春を描く
【評者】評者 千野帽子=エッセイスト
 駆けだしの漫才コンビスパークス」のメンバーである<僕>徳永は、花火大会での営業で、コンビ「あほんだら」のボケ担当・神谷さんと出会う。
 神谷さんの漫才観は<あらゆる日常の行動は全て既に漫才のために>あるというもの。日常の発話においても、いつ「ボケ」をかましてくるか知れたものではない。その日の舞台を降りても漫才師たらんとする彼に、私生活の概念はない。
 神谷さんのボケはきわめて高度で、観客に迎合するということがない。だから一般の人にはわかりにくい。彼のおもしろさを見抜く徳永は、彼とつきあいながら、いつ来るとも知れぬボケを待ち受けて、つねに軽く緊張している。
 数少ない理解者のひとりとして、徳永は神谷さんに惹(ひ)きつけられながら、でも自分は違うタイプの漫才を志さざるをえない。語り手としては、ホームズにとってのワトソンのように、神谷の栄光と悲惨を読者に伝えることで、小説自体をひとつの漫才に仕立てていく。
 小説の後半、その神谷にブレイクのチャンスがやってくる。ここでふたりの関係は少しずつ変わっていく。
 未完の伝記という形をとった青春小説『火花』に心揺さぶられて思い出したのは、対話とは小説の構造であり、話芸とは小説のルーツである、という旧ソ連の文学理論家バフチンの説だった。
 (文芸春秋・1296円)
 またよし・なおき 1980年生まれ。コンビ「ピース」で活動中のお笑い芸人。
◆もう1冊 
 吉川潮著『芸人という生きもの』(新潮選書)。志ん朝、談志、マルセ太郎から談春まで芸人三十人の魅力を語る。
    −−「書評:火花 又吉 直樹 著」、『東京新聞』2015年04月12日(日)付。

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