覚え書:「書評:花見と桜 白幡 洋三郎 著」、『東京新聞』2015年04月12日(日)付。

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花見と桜 白幡 洋三郎 著

2015年4月12日

 
◆群がる春を鋭く考察
【評者】原田信男=国士舘大教授
 日本で「花」が桜の代名詞になるのは『古今和歌集』以降のことであるが、その散り方などから武士道や軍人精神の象徴とされ、愛国のイメージと結びついた。それゆえ古くから精神的な桜論は盛んであったが、著者はいかに愛(め)でるかという花見論を重視し、桜と日本人の関係に鋭く迫る。
 まず花見の三要素として、群桜・飲食・群集を挙げる。確かにどれが欠けても日本の花見は成立しない。そして、こうした花の楽しみ方は、世界にはまったく存在せず、日本独自のものだとする。
 そのルーツは貴族たちの宴会と、農民たちの春山行きにあったとみる。すでに中世から盛んであったが、両者が融合したのは近世のことで、とくに将軍・吉宗の政策もあって、江戸に花見の名所が出現し、庶民の身近な楽しみとなった。
 また和歌など伝統的な文学では、桜論が扱われることはあっても、花見が論じられることはなかった。むしろ今様や小歌あるいは連歌や川柳などサブのジャンルで、花見が正面からテーマとされたと指摘する。
 さらに、花見の飲食は共食による一味同心を促し、それが団結という貴賤(きせん)を問わない群集に繋がり、これを巧みに演出するのが群桜だと分析する。花見行事の文化的構造を縦横に論じた本書は、興味深い日本文化論ともなっている。
(八坂書房・2052円)
 しらはた・ようざぶろう 1949年生まれ。中部大特任教授。著書『大名庭園』。
◆もう1冊 
 有岡利幸著『桜』(1)(2)(法政大学出版局)。桜の生態や花見など、古代から現代までの桜の文化と歴史を集成する。
    −−「書評:花見と桜 白幡 洋三郎 著」、『東京新聞』2015年04月12日(日)付。

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花見と桜―“日本的なるもの”再考
白幡 洋三郎
八坂書房
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