覚え書:「書評:食に生きて 辰巳 芳子 著」、『東京新聞』2015年04月19日(日)付。

Resize2106

        • -

食に生きて 辰巳 芳子 著

2015年4月19日
 
◆美味しさは命と直結
【評者】岸本葉子=エッセイスト
 九十歳を迎えた料理研究家の語り下ろしだ。料理研究家の草分けである母浜子のこと。高齢者施設へスープを届ける活動の原点となった父のこと。病で長く寝ついた若き日々。著者初の自叙伝といえる。スープは自然の中からエッセンスをすくい上げたもの。嚥下障害(えんげしょうがい)になった父のため、母とともに日々作った。
 結果的に母と同じ道へ進んだが、料理はそれほど好きでなかったという。好きでないからこそ納得したく、意味や理由を掘り下げてきた。例を挙げれば、食べるものはなぜ美味(おい)しくなければならないか。食べたら害になるものと養われるものとを、感覚で分けることが命を守る。美味しさは命と直結するのだ。
 日本の現状に著者は危機感を抱いている。味覚を育てない学校給食。四割に満たない食料自給率。警鐘を鳴らすにとどまらず、行動もすでに起こした。子どもたちに掌(てのひら)いっぱい分の大豆を撒(ま)いて育てさせる「大豆一〇〇粒運動」だ。
 食の本質を考え続けて今「食べることは他のいのちとつながること」と著者は言う。他のいのちの分子をもらって代謝回転していく。地球環境全体とも先人たちともつながっているのだと。
 来し方を振り返るだけではない。食の本義を伝える言葉が詰まっている。辰巳芳子のエッセンスの凝縮されたスープに喩(たと)えられる本である。
 (新潮社・1512円)
 たつみ・よしこ 1924年生まれ。料理研究家。著書『家庭料理のすがた』など。
◆もう1冊 
 辰巳芳子著『あなたのために』(文化出版局)。いのちを支えるスープのレシピを示し、食についての考えを述べる。
    −−「書評:食に生きて 辰巳 芳子 著」、『東京新聞』2015年04月19日(日)付。

        • -





http://www.tokyo-np.co.jp/article/book/shohyo/list/CK2015041902000191.html


Resize2086


食に生きて:私が大切に思うこと
辰巳 芳子
新潮社
売り上げランキング: 2,135