覚え書:「フォーラム:「格差」どう考えますか?:3 「子どもの貧困」取材で探る」、『朝日新聞』2015年04月19日(日)付。

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フォーラム:「格差」どう考えますか?:3 「子どもの貧困」取材で探る
2015年04月19日

(写真キャプション)「てらまっち」で学ぶ子ども=東京都内


 読者のみなさんの意見をきく中で、貧困問題、特に「子どもの貧困」への関心が高いことがわかりました。支援の動きを記事にまとめたところ、多くの反響がありました。同じテーマの過去の記事にも様々なご意見を頂いています。担当記者が、みなさんとのやりとりで考えたことをお伝えします。

 ■支援の輪の外、つなげたい

 この1年、国の財政を取材してきました。今年度の予算は約96兆円。想像を絶するお金ですが、「弱者」への配分は十分か。格差や若者の貧困は見過ごされていないのか。現場を取材したいと考えていました。

 3月に連載した「教えて 格差問題」(全7回)では「世代間格差」を担当し、「若い人ほど受け取る社会保障費で損をする」という識者の試算などを紹介しました。記事には、「高齢者も大変。戦後の厳しい時代をくぐり抜けてきた」など、様々な意見がありましたが、「やはり教育が大事」ということは、多くの指摘に共通している内容でした。

 そこで取材したのが、「『子どもの貧困』 草の根支援 『連鎖』断つ 市民が取り組み」(4月12日付朝刊3面)という記事です。生活が苦しく、十分に勉強する機会に恵まれない子どもを支える取り組みをまとめたものでした。

 この記事に、ある女性から「私たちの活動も知ってほしい」と投稿がありました。東京都文京区で学習支援に取り組む「てらまっち」という団体で教える方です。ここでは、元教員らが週3回、10人前後の子どもたちの勉強をみています。

 代表の石井楢児(ゆうじ)さん(80)に、気になっていたことを尋ねました。こうした支援に出会えていない子どもたちのことです。石井さんも「助けが必要な子がどこにいるのかはわからない。かといって『貧しい人募集中』と呼びかけて集まるわけがない」と悩んでいました。

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 <「やればできる」体験を> 掲載後、記事で取り上げた東京都豊島区の「子どもサポーターズとしま」代表の谷口太規(もとき)弁護士(36)にも改めて会いました。「努力次第で自分の未来が変わる、という発想を子どもが持てないことが問題だ」といいます。自らの家庭以外を想像できず、「仕事といえば非正規の単純労働」と思い込み、親にしても「やればできる、伸びる」という体験を子どもに与える余裕がありません。

 学習支援に加え、「生徒」がファッションに興味を示せば原宿に連れて行き、「進学したい」という意欲を持ってもらおうと高校の入学説明会に付き添いもします。谷口さんは「頑張ることの大切さ」こそが、教えたいことだと話していました。

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 <気づけばブラック企業> この1カ月の取材で出会ったある20代の男性は、中1で親に追い出され、知人を頼って生きながら、2年前にようやく正社員になりました。しかし、勤め先は「ブラック企業」で、体調を崩して働けなくなり、昨年末に生活保護を受けました。「自分はどう頑張ればよかったんだろう」とつぶやいた言葉が重く心に残っています。むしろ、私たちはどう支えるべきだったのか。そう問われた気がしました。

 記者が足を使って多くの当事者に会い、実態を伝えることはもちろんですが、紙面がそうしたつながりを生む場になればとも願っています。

 (疋田多揚〈さわあき〉)

 ■おにぎりパーティー、反響

 昨年末の衆院選は、経済政策「アベノミクス」の成果が問われました。安倍晋三首相は企業の業績回復や株価の上昇を強調しましたが、「子どもの貧困」はどんどん深刻になっています。なぜなのか。どうすればいいのか。そんな思いで取材したのが「おにぎりで『パーティー』」(14年12月9日付朝刊1面、紙面はいずれも東京本社版)でした。

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 <「豊かな日本で」驚く声> 子どもの貧困問題を支援する団体をたずねて話を聞くうち、当時小6の長女と暮らすシングルマザーの女性に出会いました。不登校だった長女がやっとフリースクールに通えるようになったこと、ただ、少し不安定なところがあるので介護の仕事もフルタイムでは働けないこと、生活保護を受けながら暮らしていることなどを話してくれました。

 「給料日前になると、夕ご飯がおにぎりだけの日もある。そういうときは、娘に『きょうはおにぎりパーティーよ』って言うの。だって暗くなっちゃうじゃない」。明るくて前向きで、力強い人でした。「シングルマザーの家庭は、本当に厳しい。アベノミクスなんてどこの国の話って思っている。新聞はちゃんとそういう声も伝えて欲しい」。逆に、私のほうがそう励まされました。

 記事は、特にインターネットで広がりました。朝日新聞デジタルの記事のうち、掲載後1週間で最も読まれたほか、現在までフェイスブックで1万4千回シェアされ、ツイッターでは3千回つぶやかれました。「豊かな日本で、食べるのに困っている子どもがいるなんて」と実態に驚く声が多かったように思います。掲載後、母子に渡して欲しいと励ましの手紙や文房具なども届きました。

 一方で、こんな声も寄せられました。「朝日新聞生活保護の母親に肩入れしすぎだ」「生活保護なのにフリースクールに行くなんてぜいたくをするから、給食が食べられないのは自業自得」。こうした自己責任論が強まっている背景も探る必要があると感じています。

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 <「助けて」から変わった> 「おにぎりパーティー」の母子はこの春、新しいスタートを切ったそうです。長女はフリースクールの中学に進学しました。がんばって「特待生」になったそうです。母親はいま、フルタイムの仕事に転職し、生活保護の受給をやめる準備を進めています。「生活の苦しさは変わらなくても、いろんな支援の手とつながって、助けてと言えるようになったことで前向きになった。それが変化のきっかけだった」と言います。

 子どもの貧困の問題は、背景に資産の格差、教育や雇用、男女の格差などが絡み合う複雑な問題ですが、未来を担う子どもたちへの施策は、待ったなしです。これからも多様な視点から記事を書き続けていきたいと思っています。

 (岡林佐和)

 ■「教師の仕事の格差も検討を」

 教育の質に大きく影響する「教師の仕事」に格差があります。公立と私立では、負担する授業、職場環境、授業開発の資金、生徒一人あたりに振り分けることができる時間の格差が大きく、放置できないと思います。小中高等学校では親たちとの関わり合いが仕事に加わります。大学に勤務中、考えさせられたのは、非常勤講師の勤労条件でした。教師の労働条件の格差を検討することも大切ではありませんか?

 さいたま市・鈴木愼一さん(82)

 ■「親になること、真剣に考えて」

 病院で働いていますが、経済的に余裕がなく、先の見通しが甘いまま出産する人が多いです。子どもの貧困を防ぐため、思春期や結婚適齢期にある人たちに、教育を通じて親になることを真剣に考えてもらうべきではないでしょうか。行政支援を受けるため、あえて結婚しない母親もいます。これでは、一生懸命働いている人が報われない。本当に生活に困っている人に支援が行き届いていないことに、不平等さえ感じています。

 京都府・40代女性

 ■「政治への国民の意識が重要」

 先週の紙面で京都府の男性が指摘した「国民自身が格差社会の成立を望んでいるように見える」という意見は、厳しいようですが一定の事実を捉えていると思いました。格差を生み出す「貧困」の解決に政治の果たす役割が大きいのであれば、政治に対する国民一人ひとりの意識が重要になってくるはずです。民主主義の機能や成熟に影響する知識や思考の「貧困」が、政治的な無関心につながっているのではないでしょうか。

 東京都・熊田響さん(37)

 ◆朝日新聞デジタルのフォーラムページでは引き続き、格差の「解決策」について読者のみなさんの意見を募っています。1回目のアンケートで回答が集まった「資産」「雇用」「教育」の格差をどうすれば解決できるのか、みなさんのアイデアをお寄せ下さい。

 これまでのご意見を見ると、「資産」については、税制に関係する意見が中心です。マイナンバー制度の活用を提案するコメントもありました。「雇用」は、非正規雇用の待遇改善に向けた解決策が多いようです。同一労働同一賃金の実現や労働法制の規制強化が提案されています。

 「教育」では、無償化や返済する必要がない奨学金を充実させるべきだという意見が目立ちます。親の所得に応じて授業料を変動させる、というアイデアもあります。

 次回は、みなさんの「解決策」を特集する予定です。

 (編集委員・沢路毅彦)

 ◇次回26日は格差<4>「解決策」は

 ◇ご意見はasahi_forum@asahi.comメールするか、〒104・8011(住所不要)朝日新聞オピニオン編集部「格差」係へ。朝日新聞デジタルのフォーラムページは [:フォーラム:朝日新聞デジタル] 別ウインドウで開きますです。
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