覚え書:「書評:日本人が知らない漁業の大問題 佐野 雅昭 著」、『東京新聞』2015年05月10日(日)付。

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日本人が知らない漁業の大問題 佐野 雅昭 著

2015年5月10日
 
◆生活感覚で改革批判
【評者】川島秀一=東北大教授
 本書は、現在の日本の水産業や魚食文化について、メディアを通し、さも改革的に採り上げられていることに対して、水産科学の立場から、逐一、疑問点や異議を投げかけた、刺激的な書である。
 たとえば「水産業における規制緩和と企業参入」、養殖・ブランド化・認証制度などへの過剰な期待、「ファストフード」、「食育」など、もっともらしいことの内実は、結局、グローバリゼーションのなかの工業製品の論理に基づいていることを明らかにしていて小気味よい。
 著者には「水産物は供給量や価格を人間がコントロールできないものだ」という前提があり、「機能面に偏っていて、水産物の本来的豊かさ、伝統的・文化的価値」を無視した、流行的言辞や政策方針に批判の刃(やいば)を向けた。改革されようとしている「漁協」も「卸売市場流通」も、単なるデータに頼らず、「人」を信頼し、「人」に依存してきた制度であるがゆえに、「目利き」を通して確かな「魚」を人々に届けてきたのである。
 著者は「あとがきに代えて」で、雑魚こそ可能性があると述べている。マグロやウナギの減少に憂い、輸入サーモンに飛びつくばかりでなく、身近な食材に敬意をはらい、頭でなく身体で覚える食育こそが水産業を豊かにする眼目であるという。昨今の漁業をとりまく問題を、生活感覚から真っ当(とう)に論じた好著である。
新潮新書・756円)
 さの・まさあき 1962年生まれ。鹿児島大教授。著書『サケの世界市場』など。
◆もう1冊
 勝川俊雄著『漁業という日本の問題』(NTT出版)。日本の漁業を持続的に儲(もう)かる産業にするための道筋を提示。
    −−「書評:日本人が知らない漁業の大問題 佐野 雅昭 著」、『東京新聞』2015年05月10日(日)付。

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