覚え書:「書評:サイエンス異人伝 荒俣 宏 著」、『東京新聞』2015年05月10日(日)付。

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サイエンス異人伝 荒俣 宏 著

2015年5月10日
 
◆夢の痕跡あぶり出す
【評者】田中聡=作家
 近代科学はまず<驚異>で人を魅了する。先頃のSTAP細胞の騒ぎもそうだったように、科学が社会と影響しあってきた裏面の姿は「楽天的でしかも驚異に満ちた」興業、つまりは見世物(みせもの)だった。人をワクワクさせる<夢>だった。
 本書は、十九世紀後半からのドイツ科学、そして二十世紀のアメリカ科学のユニークな科学者たちの「非合理的な人間ドラマ」を物語る。科学や産業技術の奥底に秘められた<夢の痕跡>をあぶり出してゆく。すると、すっかり日常化した電話や自動車、飛行機、コンピュータなどに、かつての<夢>がひととき蘇(よみがえ)り、いきいきと見えてくる。<夢の痕跡>はノスタルジーを帯びてなお<驚異>なのだ。そして<異人>たちのドラマは愉(たの)しく、刺激的で、切ない読み物である。
 とりわけドイツの科学者たちの魅力は、近代唯物論と壮大な格闘を繰り広げたフェヒナーから、はばたき式飛行機を構想したリリエンタール兄弟、イルカ型潜水艦の発明者バウアーにいたるまで色あせることがない。利益追求に主導されたアメリカ科学も、ドイツから多くの科学者、技術者が移住したことで<夢>を受け継いだ。コンピュータには、理知を持つ自動人形という<夢の痕跡>があるという。新たな<驚異>を見せようとする現代科学も、実はかつての<夢の痕跡>に駆動されているのではなかろうか。
講談社ブルーバックス・1382円)
 あらまた・ひろし 1947年生まれ。作家。著書『帝都物語』『奇想の20世紀』。
◆もう1冊
 J・コーンウェル著『ヒトラーの科学者たち』(松宮克昌訳・作品社)。先進科学技術を生んだ戦争と科学者のドラマ。
    −−「書評:サイエンス異人伝 荒俣 宏 著」、『東京新聞』2015年05月10日(日)付。

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