覚え書:「【書く人】自身見つめ「在日」描く『ひとかどの父へ』 作家 深沢 潮(うしお)さん」、『東京新聞』2015年05月10日(日)付。

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【書く人】

自身見つめ「在日」描く『ひとかどの父へ』 作家 深沢 潮(うしお)さん

2015年5月10日
 
 「在日コリアン」をテーマにした小説だ。
 出版社でアルバイトをしている主人公の朋美は、八歳の時にいなくなった父が在日朝鮮人だったことを知る。韓国にいい感情を抱いていなかった彼女は、その事実を受け入れられない。だが、父の足跡を追う中で、両親の秘められたドラマに心を動かされていく−。
 「自分と向き合わなければならないので、書くのは本当に辛(つら)かった。でも、一つ荷物を降ろすことができました」
 在日一世の父と二世の母を持つ深沢さんも、自身の「在日」という属性に思い悩んできた。外国人登録証明のための指紋押なつ、就職、結婚…。通称名を使い、国籍を周囲に明かしていなかったが、ことあるごとに「自分はみんなと違う」と意識させられた。
 「『在日』であることを受け入れられない自分と、そう思ってはいけないという気持ちに引き裂かれていた。受け入れられるようになったのは子供を産み、母親という立場になってから。やっと地に足がついた感じでした」
 子供の将来を考え、日本国籍を取得した。離婚し、その傷を癒やすように小説を書き始めた。在日の人たちの暮らしを温かく描いた「金江のおばさん」で二〇一二年、「女による女のためのR−18文学賞」の大賞を受賞してデビューした。
 「どこの国の人だから、ということではなく、結局は個人でそれぞれなんです。この本も手に取ってもらえれば、『在日』ではなく、すぐそこにいる女の子の話だと分かってもらえる。知らないことが誤解を生む。自分を含め、伝える側の責任は重いと思います」
 現在八十四歳の深沢さんの父親は戦後間もなく、勉強をしたくて一人で海を渡って日本に来た。韓国の民主化運動に関わった経験もある。その姿は朋美の父親と重なる。
 「私の父親は家族の生活を支えるため、若いときの志を捨てざるをえなかった。たとえ何も成し遂げられなかったと父自身が思っていたとしても、私は父を立派だと思う。そういうお父さんたちを肯定したい、と強く思います」
 「在日」に限らず、ママ友たちの日常や女性の貧困問題など作品で扱う題材は幅広い。「世間は『主婦は』『シングルマザーは』とステレオタイプのラベルを貼ろうとする。固定観念をとりはらい、違う角度でものを見ていきたいですね」
 朝日新聞出版・一九四四円。 (石井敬)
    −−「【書く人】自身見つめ「在日」描く『ひとかどの父へ』 作家 深沢 潮(うしお)さん」、『東京新聞』2015年05月10日(日)付。

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