覚え書:「本音のコラム:仮面総理=山口二郎」、『東京新聞』2015年06月21日(日)付。

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本音のコラム
仮面総理
山口二郎

 総理大臣はいいなあ。安保法案の審議で野党から何を聞かれても、同じことばかり繰り返せばいいのだから。本音のコラムで毎週違うことを書かなければならない私にはうらやましい。
 最後は「私は合憲だ、安全だと確信しています」で済むのもいい気なものだ。大学で学生に、おまえの確信なんか一文の値打ちもない、根拠と論理を示して他人を説得させる説明が必要だと教えている教師から見れば、あれはダメな見本だ。ゼミで学生が「私は確信しています」と言い、それ以上の説明を拒否しだしたら、授業は崩壊する。
 政府の説明がここまで破綻した理由は何か。結局自分たちが本心では軽蔑している憲法の規範性を認めたうえで、法案の合憲性を説明しようとしているからだ。婚姻関係が実質的に破綻し、早く離婚したいと思っている配偶者について、他人に対してはこの人は立派ですと説明しているようなものである。
 集団的自衛権を行使する国家になりたいというのは、一つの政策である。しかし、それはあくまで今の憲法の枠内ではできない。最初から憲法改正を提起して、国民を説得することこそ、誠実な政治家のとるべき道である。安倍首相の祖父、岸信介も安全保障についてはこの正攻法を取った。負けることは目に見えているからそうしないというのでは卑怯者である。(法政大教授)
    −−「本音のコラム:仮面総理=山口二郎」、『東京新聞』2015年06月21日(日)付。


http://mainichi.jp/shimen/news/20150615dde012010054000c.html



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