覚え書:「書評:人間の尊厳と人格の自律 ミヒャエル・クヴァンテ 著」、『東京新聞』2015年06月14日(日)付。

2


        • -

人間の尊厳と人格の自律 ミヒャエル・クヴァンテ 著 

2015年6月14日

◆生命の線引き可能か
[評者]雑賀恵子=評論家
 生命操作技術の急速で高度な発達は、恩恵をもたらすと同時に、従来考えもしなかった選択を突きつけた。延命治療はすべきか、受精卵の「異常」を検査して選別すべきか、人間にも遺伝子操作をすべきか…。技術の研究や運用に関して法的規制も必要となる。だが、人間とは何か、生命の線引きは可能かという問いが、その奥底にあるから厄介だ。「生きるに値する命」を誰が決めるのか。<生の質>を価値評価して線引きするのか、いかなる生命にも尊厳を認めるのか。
 生命の選別を国家規模で行ったナチズムの記憶を抱え持つドイツは、基本法憲法)に人間の尊厳を謳(うた)っている。本書は、着床前診断やクローン技術、臨死の介助など生命科学に関するドイツでのさまざまな議論を追う。追い詰められていくのは、人間の尊厳の根拠だ。自己の生を自己で決定するという時に、自己は社会といかなる緊張関係を持つかということである。下世話に言えば、利己を追求する自由主義の食い合いか、社会利益として行政管理されるのかということ。
 どちらにも陥らず、多様な価値を認めながら、社会の中で自己の生をどう担っていくかを「人格の自律」を軸に、著者は模索する。精密な言葉や論理の検討が必要な議論を、われわれが日本語ですっきりと読み取れるのかはわからないが、示唆的な思考であることは間違いない。
  (加藤泰史監訳、法政大学出版局・3888円)
 Michael Quante 1962年生まれ。独ミュンスター大教授。著書『人格』など。
◆もう1冊 
 柳澤桂子著『生命(いのち)の不思議』(集英社文庫)。遺伝や病から臓器移植まで、生命科学者が生命の神秘について解読。
    −−「書評:人間の尊厳と人格の自律 ミヒャエル・クヴァンテ 著」、『東京新聞』2015年06月14日(日)付。

        • -




http://www.tokyo-np.co.jp/article/book/shohyo/list/CK2015061402000175.html



Resize2732