覚え書:「書評:ポスト資本主義 広井 良典 著」、『東京新聞』2015年07月19日(日)付。

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ポスト資本主義 広井 良典 著  

2015年7月19日
 
◆脱成長へ 意識変革を予測
[評者]根井雅弘=京都大教授
 「定常型社会」の提唱で有名な著者による「ポスト資本主義」論。その核心は、数百年も続いた「拡大・成長」志向から「定常化」への「静かな革命」が進行していく二十一世紀には人々の意識や行動様式がラディカルに変化していくだろうという主張にある。
 本書の構想は実に壮大である。人類史における拡大・成長と定常化の三つの大きなサイクルを描きながら、資源・環境の制約が深刻となる定常期は、むしろ「物質的生産の量的拡大から精神的・文化的発展」へシフトしていくよい機会なのだと捉えている。このような考え方は十九世紀中葉のJ・S・ミルにもみられるが、世界的に高齢化が進み、人口や資源消費がある定常点に向かうような「グローバル定常型社会」においては、国家を中心にした集権的・一元的な社会ではなく、活動主体が多元化し、地球上の各地域も多様化していくことを、最新の研究成果を踏まえながら詳述している。
 評者が特に関心をもったのは、「生産性」の概念を再考し、「労働生産性から環境効率性」への転換を促している部分である。従来、「生産性が低い」とされた福祉や教育などの対人サービスの領域が、新しい尺度ではむしろ「生産性が高い」ものとして浮上し、<人々の関心はサービスや人との関係性(あるいは「ケア」)に次第にシフトし、人が中心の「労働集約的」な領域が経済の前面に出るようになる>という。示唆に富む指摘である。
 それにもかかわらず、アベノミクスのように、相変わらず「経済成長がすべての問題を解決してくれる」という発想はいまだに根強い。それに対して本書は、「人口減少のフロントランナー」としての日本が、「拡大・成長」の一元的な物差しから決別し、「持続可能な福祉社会」へと進むべきことを主張している。
 論旨は明快であり、二十一世紀の日本や世界が直面する課題を知りたい読者にはおすすめの一冊である。
岩波新書・886円)
 ひろい・よしのり 千葉大教授。著書『定常型社会』『日本の社会保障』など。
◆もう1冊 
 岩井克人著『資本主義から市民主義へ』(聞き手・三浦雅士ちくま学芸文庫)。貨幣から倫理までを論じ、市民主義とは何かを示す。
    −−「書評:ポスト資本主義 広井 良典 著」、『東京新聞』2015年07月19日(日)付。

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