覚え書:「書評:老後破産 長寿という悪夢 NHKスペシャル取材班 著」、『東京新聞』2015年09月06日(日)付。

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老後破産 長寿という悪夢 NHKスペシャル取材班 著


2015年9月6日

◆思いがけない転落の実例
[評者]森清=労働問題研究家
 まず四十代から五十代で親御さんをお持ちの方に、本書をお勧めしたい。また、中小・中堅企業の経営者、経営幹部にも。超高齢社会の労務経営は、賃金にとどまらず、本人と家族の生活環境を充分に把握しておくことが肝要だ。マネジメントは経営環境に合わせて対応したい。と思うのも、本書に登場する老後の漂流・独居・貧困・無支援という厳しい生活を強いられた老人やその親族のほとんどが、まじめに働いてきた人たちばかりだからだ。
 例を一つ挙げると、母親が年老いてきて、長男と暮らしたいと言っていると相談されたら、どうするか。長男は五十代半ば。このようなケースが紹介されている。必要に迫られ介護退職し、やがて母を看取(みと)り、再出発と職安に行ったところほとんど手頃な職がない。母と二人で住んだ家は手放したが、賃貸住宅に住むための身元保証人が見つからず賃宿住まいに。しかも本人が病み、治療費が心配で病院へ通えず、寝たきり状態となった。この場合、介護保険の関係者に相談すれば、生活保護を受けながら病院で治療の可能性も開かれる。
 超高齢化という新しい状況だけに、市民の側が社会福祉制度を理解していないケースが多いようだ。評者は八十二歳、「要支援2」を最近認定され、週に一回の訪問リハビリを受けている。健康保険を利用して月に一回の「在宅診療」も。関係者の方々が熱心に教え、分からないことは調べてくれた。本書に登場する介護関係者もみな熱心で心温かい人たちだ。日本の家庭で他人を家に入れるのはためらいがちだが、それにも慣れよう。もちろん、関係者の教育は徹底しておいてほしい。
 恐ろしげな副題もついているが、都市部のみならず農村ですら起こっているさまざまな実例を丹念に拾って紡いでいるだけに参考になる。技術が世界でトップだと豪語しても、その持ち主の家庭で絶えず気がかりなことがあるようでは士気に影響する。少なくとも学習はしておくにこしたことはない。
(新潮社・1404円)
 昨年9月に放映されたドキュメンタリー「老人漂流社会」の取材班のルポ。
◆もう1冊
 藤田孝典著『下流老人』(朝日新書)。格差社会の進行により、多くの高齢者の下流化が予測されている。その背景と対策を提示。
    −−「書評:老後破産 長寿という悪夢 NHKスペシャル取材班 著」、『東京新聞』2015年09月06日(日)付。

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