覚え書:「書評:アンドレ・バザン 映画を信じた男 野崎 歓 著」、『東京新聞』2015年09月06日(日)付。

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アンドレ・バザン 映画を信じた男 野崎 歓 著

2015年9月6日


◆虚構の力が開く現実
[評者]土田環=日本映画大准教授
 今日ほど、映画に対して「リアル」や「現実」という言葉を用いることが、空疎に感じられる時代はないだろう。眼前に映し出される世界は、私たちがそれを事実であると認識できるものでさえない。映画館のスクリーンや携帯電話の画面の上に漂流するイメージは、私たちの身体感覚から切り離されてしまったかのようだ。
 第二次世界大戦直後に本格的にその活動を開始したアンドレ・バザンには、映画と現実を架橋することがその批評的な使命だった。本書はトリュフォーゴダールら、のちにヌーヴェル・ヴァーグ映画作家たちの精神的な「父親」として評価されることの多かったバザンの批評に並走しつつ、その試みを今日的な映像の課題へ向け直そうとするものである。
 バザンにとって、映画における「現実」とは、素朴なリアリズムを示すものではない。曖昧さと複雑さを内包する現実のまるごとが映画になる。自明に思われたイメージが、世界を生きる私たちの存在のあり方として捉え直されるとき、「映画という虚構が、その虚構性を支える制度を問い直すことを通じて開く別のリアリズムの可能性」が生まれる。私たちはまだ映画を信じることができるのか−著者らの新訳により出版されたバザンの著書『映画とは何か』(上)(下)(岩波文庫)と併せて、本書を読むことを薦めたい。
春風社・2484円)
 のざき・かん 1959年生まれ。東京大教授。著書『フランス小説の扉』など。
◆もう1冊
 ミシェル・マリ著『ヌーヴェル・ヴァーグの全体像』(矢橋透訳・水声社)。映画を革新した運動の実態に迫る論集。
    −−「書評:アンドレ・バザン 映画を信じた男 野崎 歓 著」、『東京新聞』2015年09月06日(日)付。

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アンドレ・バザン:映画を信じた男
野崎 歓
春風社
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