日記:吉野作造による政治の非権力化の追求

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 吉野は政治を人類の社会生活を維持し発展させるために、それを統制し秩序づける「客観的支配関係」として意味づけ、それによっては実現されない人類の自由への要求との不断の緊張によって政治は進歩してゆくものととらえる。そして秩序と自由(あるいは権力と倫理)との究極の一致を政治の目標とする。いいかえれば政治と道徳との一致を永遠の理念として掲げる。彼の唱えた「デモクラシー」の最大の意義は、その最終的な決定主体である「民衆」の道義的判断能力の行使によって「政治生活と道徳生活との乖離」を埋めることにあった。吉野が「デモクラシー」を正常に機能させる要因として最も重視したのは、「民衆」の政策的判断能力よりも道義的判断能力であった。吉野にとっては、権力は社会生活の統治原理としては唯一のものでも最高のものでもなかったのであり、政治の非権力化、すなわち道徳化こそ政治の進歩の方向であった。「デモクラシー」の発展は、そのような方向に向けて政治の変革を促進するであろうと吉野は信じた。吉野が日本における「デモクラシー」の原理を模索しながら、同時にクロポトキンアナーキズムの理想に深く共感し、「政治家は、常に無政府状態を理想とすることを忘れてはならない」と述べている所以は、吉野の政治観にあった。
    −−三谷太一郎「二人の『学者政論家』 −−吉野作造と大山郁夫−−」、三谷太一郎『学問は現実にいかに関わるか』東京大学出版会、2013年、94−95頁。

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