覚え書:「書評:百歳までの読書術 津野海太郎 著」、『東京新聞』2015年10月11日(日)付。
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百歳までの読書術 津野海太郎 著
2015年10月18日
◆衰えてこそ知る喜び
[評者]荻原魚雷=書評家
老後の読書−現在四十代半ばの評者にはまだちょっと先の話かなとおもいながら、『百歳までの読書術』を読んだ。
若いころの読書には未来がある。しかし老年が近づくにつれ、自分に残された時間が気になってくる。蔵書を減らすか増やし続けるか。遅読か速読か。
七十歳をこえた津野さんは、老いの中に新たな読書の喜びを見いだしてゆく。「退職老人」は懐がさびしくなるから、気軽に本が買えない。昔、読んだ本を再読したり、近所の図書館を利用したりする。大岡昇平、正宗白鳥ら作家の晩年の文章を読み、現在の自分と比較する。大家とおもっていた人たちが、いつの間にか自分より年下になっている。
「老いたじぶんの心身に、日ごと、わけのわからん新しいナゾが生じる」。誰にとっても「老年」は未知の体験である。津野さんは「もの忘れ」現象に興味を持つ。老作家の日記の中にも、そうした兆候が見え隠れする。何歳になっても好奇心は衰えない。否、衰えること自体、新発見の連続なのだ。
病院に行っても本を読む。闘病記や入院体験記が他人事(ひとごと)ではない。「−ざまァ見ろ、こんな読書、若い諸君にはゼッタイにできないだろう」
老人にしかできない読書の指南書であると同時に、老年にならないと書けないエッセイの妙味もつまっている。
(本の雑誌社・1836円)
<つの・かいたろう> 1938年生まれ。編集者をへて評論家。著書『花森安治伝』。
◆もう1冊
大岡昇平著『成城だより』(上)(下)(講談社文芸文庫)。世相への発言や読書記録をつづった作家晩年の日記体エッセー。
−−「書評:百歳までの読書術 津野海太郎 著」、『東京新聞』2015年10月11日(日)付。
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http://www.tokyo-np.co.jp/article/book/shohyo/list/CK2015101802000181.html